5月29日(日) 2011 J1リーグ戦 第13節
広島 2 - 1 鹿島 (19:04/広島ビ/8,049人)
得点者:9' 森崎浩司(広島)、18' 興梠慎三(鹿島)、90'+1 森崎浩司(広島)
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森崎浩司の左足であれば、決めても決して不思議ではない。「彼なら、こういうシュートを量産できる」というペトロヴィッチ監督の言葉が嘘でないことは、過去の歴史が証明している。
たとえば、2001年9月29日・福岡戦でのプロ2点目となったFK弾は、故富樫洋一氏(サッカージャーナリスト)をして「世界的なGKでもとれない」と言わしめた。2002年11月16日、カシマスタジアムで放った彼の超速ミドルに対し、曽ヶ端準は一歩も動けなかった。2007年12月15日、J2降格が決まった直後の天皇杯・磐田戦では豪快なFKを二本決め、川口能活に「凄かった」と脱帽させている。
好調時の彼の左足は、Jリーグを代表するレベル。ただその事実を証明する機会が、これまでは少なかった。それは森崎浩司のサッカー人生が、ケガと病気の日々にまみれていたからだ。
度重なる足の骨折や内側側副じん帯損傷などで、手術や入院を繰り返した。アテネ五輪後にはバーンアウト症候群に陥った。だがもっとも深刻だったのは、2008年に発症したオーバートレーニング症候群。視界が全てぼやけてしまうという異常がその前兆となり、やがて彼を死の一歩手前まで追いつめた。笑うことも泣くことも最愛の娘を抱くこともできず、喜怒哀楽の感情すら失った。愛妻の「私が助けてあげる」という一言がなければ、兄・和幸をはじめとする家族、ペトロヴィッチ監督、仲間たちのサポートがなければ、彼の回復は不可能だったかもしれない。「ヨーロッパで彼と同じ病にかかった選手の多くは引退する」と指揮官は証言する。
森崎浩司は2009年をほぼ1年、棒に振った。昨年、奇跡的な復帰を果たしたものの、症状は常に森崎浩の身体を悩ませる。秋以降は試合に出場できなくなり、今年もキャンプから病気の症状に悩まされた。それまでの彼であれば、外出することすら難しかったかもしれない。だが、生命の危機を乗り越えた森崎浩司は、ここで歯を食いしばった。身体と気持ちを振るい立たせて、必死で日々の暮らしと向き合った。その我慢に秘められた「俺はサッカー選手。サッカーをあきらめない」という断固たる決意が、彼を突き動かしていた。たたでさえ強烈なパワーと精度が同居している彼の左足に情熱と執念が乗り移り、鹿島を倒すスーパーゴールへと結実した。
敗れたとはいえ、ACL・FCソウル戦の完敗から鹿島は見事にチームを立て直してきた。システムを4-2-3-1に変更して大迫勇也をワイドに開かせ、アレックスと共に攻める左サイドからの攻撃は、特に前半、広島に脅威を与えた。18分に生まれた興梠慎三の今季初得点も、大迫の左クロスから生まれている。再三、ミキッチに裏のスペースをつかれてピンチに陥っても勇気を持って前に出て、31分・43分と左サイドから決定機を創り出し、立ち上がりに失ったペースを自分たちに引き寄せた。
後半、広島がクロスに対する対応を修正すると、鹿島の決定機は減少。しかし球際を激しく争い、巧みなボールキープから広島のゴールにガムシャラに迫った。屈辱から這い上がろうとする「傷ついたライオン」たちの泥だらけの純情が、身体を前へ前へと動かす。
71分、野沢拓也のFKのこぼれを西大伍がワンタッチではたき、増田誓志が至近距離から放ったシュート。鹿島の勝利への純情がお家芸のセットプレーとなって実を結んだか、と広島サポーターを震撼させた瞬間だった。
だがそこに身体を投げ出して防いだのが、森脇良太だ。アディショナルタイムでのレッドカードはともかくとして、彼のこういう情熱的な守備は鹿島のチャンスの芽をことごとく摘み取った。ミキッチが足に不調を抱えてからは、守備だけでなく攻撃にも積極的に参加。90分を超えても攻守にわたって走り回り、森崎浩司に落ち着いたパスを出して広島ビッグアーチに歓喜を呼ぶお膳立てを果たした。後半から登場した石川大徳や最終ラインで守備を引き締めた森崎和幸らと共に、彼もまた勝利の演出者だったと言っていい。
だが、この日はやはり、森崎浩司に尽きる。1本目はムジリが相手を引きつけて出したパスを受けての約30m弾。2本目はプレスにきた岩政大樹をうまくブロックしながらの強烈なミドル。岩政大樹が「素晴らしい」と感嘆したほどの強烈かつビューティフルなシュートを2本もそろえたこと。雨と強風の中の試合でいつも以上に疲れが足にたまっているはずのアディショナルタイムになってなお、強烈な決勝ゴールを叩き込む勝負強さ。「私にとって、森崎浩司は日本代表だ」と紫の指揮官が絶賛した背番号7は、重大な病との長く苦しい戦いに勝利するべく闘っている男の強靭さを、見事に証明したのである。
以上
2011.05.30 Reported by 中野和也
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