クラブにとってだけでなく、スタジアムにとっても記念すべき一戦を前に、「当日は、特別な思いが沸くでしょうね」と語るのは、鳥取市教育委員会事務局体育課の課長補佐兼スポーツ係長、乾秀樹さん。約20年前、鳥取市役所の職員として、スタジアム建設の中心となって奔走した人物だ。
鳥取市内の高校を卒業後、鳥取市役所に就職した乾さんは、当時は現役のサッカー選手。国体成年チームの左サイドバックとして、１９８６年の山梨国体では、優勝候補の茨城県を３回戦で下すと、そのまま初優勝。サッカー後進県の快挙は当時、大きな話題を呼んだ。
その後、国体選手の引退と前後する時期の91年、乾さんに大きな使命が課せられる。95年に鳥取県で開催されるインターハイのサッカー会場が鳥取市に決まり、新設するスタジアムの建設に携わることになったのだ。
高校サッカー用ということもあり、当初は収容人数３０００人程度、スタンドもメイン以外は芝生席、という計画だった。だが、折しも93年のＪリーグ開幕が決まり、サッカー人気が高まっていた頃。当時の鳥取県サッカー協会会長の「これからはプロの時代。せっかくならＪリーグ基準を満たすものにしよう」という声を受けて、計画は総事業費40億円という巨大なものに変貌した。
それからの道のりを、乾さんは「そりゃあもう、大変でしたよ」と振り返る。ガイナーレ鳥取の前身であるＳＣ鳥取は、まだ中国リーグと県リーグを行き来しており、Ｊ参入の構想すらなかった。しかも活動拠点は県西部の米子市で、東部の鳥取市は県内でもサッカー熱が低い土地柄。市長、市議会、市議会議員、どこに出向いても『なぜ40億円もかけて、サッカー専用スタジアムを作らなければいけないのか』と反対された。
それでも、とにかく95年までには完成させなければならず、まずは建設予定地を決めた。今後のスカパー！中継でも映るはずだが、このスタジアムの周囲は田んぼに囲まれている。建っている場所も以前は田んぼだったのだが、この周辺の農地は、鳥取県や農林水産省が長年をかけて開発し、農作物の栽培が始まってから、まだ数年しかたっていなかった。そこを埋め立てるという計画に、乾さんは県や同省の職員から『お前は何を考えているんだ』と叱責されたという。
それでも粘り強く交渉を続けた結果、少しずつ建設計画は動き始める。93年に開幕したＪリーグが一大ブームを巻き起こし、『新しいスタジアムでＪリーグの試合をやってもらえれば、地元の活性化にもつながる』というアイディアも現実味を帯びていた。建設にあたっては鳥取県の“鳥”から、メインスタンドの屋根を、鳥の羽根をイメージしたデザインに。『バードスタジアム』という名称は、その流れで自然に決まっていた。
95年春、ついに完成。乾さんは「ようやく完成して、『やれやれ』という感じだった」と振り返る。新設のスタジアムを主会場に、同年７月から８月にかけて行われたインターハイでは、千葉の習志野高が初優勝。優勝メンバーには、現在ガイナーレ鳥取でプレーする吉野智行がいた。
乾さんにはもう一つ、『Ｊリーグの試合を誘致する』という重要な仕事が残されていた。建設が実現したのは、Ｊ開催の計画があったからこそ。「絶対に誘致しろ」との至上命令を受けて、完成前から全国のＪクラブを訪ねて回り、95年10月、広島対平塚（当時）の開催が実現。中田英寿らがプレーした一戦は、１万１２８２人の観衆を集めた。同年末の天皇杯では、人気絶頂のＶ川崎（当時）が筑波大と対戦し、１万２９８３人を動員。これはスタジアムの最多観客記録でもある。
スタジアム建設とＪ開催、２つの大きな仕事を終えた乾さんは、97年に別の部署に異動。しかしその後、『バード』がガイナーレ鳥取のホームスタジアムとなるまでには、さらに紆余曲折を経ることになる。
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J2 第9節 鳥取 vs 富山（13:00KICK OFF/とりスタ）
2011.04.26 Reported by 石倉利英
