12月25日（土） 第90回天皇杯準々決勝
福岡 2 - 3 Ｆ東京　（15:00／熊谷陸／6,553人）
得点者：13' 大久保哲哉（福岡）、90'+3 石川直宏（Ｆ東京）、94' 平山相太（Ｆ東京）、98' 石川直宏（Ｆ東京）、116' 丹羽大輝（福岡）
チケット情報 ｜天皇杯特集
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石川サンタが熊谷に舞い降りた―
F東京が、福岡を延長戦の末に３−２で破り、２大会ぶりの準決勝進出を果たした。福岡が大久保哲哉のゴールで先行してF東京を追い詰めたが、後半アディショナルタイムに石川直宏が劇的な同点弾。延長前半に平山相太、石川のゴールで畳み掛け、追いすがる福岡を突き放した。F東京は、29日、国立霞ヶ丘競技場で鹿島と準決勝を戦う。

13分。
福岡は好機を逃さず、幸先よく先制点を挙げた。大久保は、ボックス内でボールを受けると、猛然とゴールへと進んだ。「今日は絶対に決めてやるんだ」。その気持ちを乗せて追いすがるDF中村北斗を跳ね除け、左足でゴールネットを揺さぶった。
先行した福岡は、粘り強い守備でF東京の攻撃を抑えた。サイドは破られるものの、ゴール前では丹羽大輝と、田中誠を中心に守備陣が身体を張って防ぎ、GK神山竜一も当たっていた。１−０のまま、試合を推移させて「99％勝てた」（大久保）はずのゲームだった。

電光掲示板の試合時間は消灯し、残りは3分間のアディショナルタイムへと入る。F東京が仕掛けてくるパワープレーに対して平山のマークに大久保が付いて対応した。完封勝利目前で掴んだはずの勝利はこぼれ落ちた。３分後、試合終了の笛は勝利を告げるはずが、延長戦突入を知らせる音へと変わっていた。大久保は、ピッチを蹴り上げて行き場のない悔しさを露にした。

「コンディションはいいし、無理すればやれると思うよ。でも、29日はみんなに任せようかな」　

石川は試合数日前、軽口を叩いて笑っていた。リーグ第33節・山形戦で右ふくらはぎを肉離れし、全体練習からもしばらく離れてきた。合流したのは試合２日前だったが、ベンチ入りメンバーに入った。
　
「離れている間、頑張っていた（田邉）草民も、僕がメンバー入りしたことで外れてしまった。メンバー入りした以上はその責任を果たさなければいけないと思っていた」
　
73分。
勝負どころで出番がやってきた。ベンチに呼ばれると、ゴール裏から自分の名前を叫ばれた。口元を横に結んで昂ぶりもなく、冷静にピッチを観察していた。
「１点決めれば、絶対に流れが変わる」
FW鈴木達也の投入により、コンパクトに保たれていた福岡の守備陣にも綻びが見え始めていた。だが、刻々と時間は過ぎていく。平山の高さを生かしたパワープレーも大久保に封じ込められ、手詰まりの空気も出始めていた。
「あそこで諦めるわけないよ。最後の最後、絶対に俺のところにボールが転がってくる。そのワンチャンスは必ずあると信じていたから」
　
試合終了まで数十秒。
セカンドボールを拾い、攻撃を重ねると、前線に上がった今野泰幸と相手DFが競り合った。「ここに来い」。そう信じたボールが目の前で跳ねた。身体をたたみ込んでボールの芯を捉える。確かな感触は、ネットまで突き抜けた。腹底から声が上ってくる。ベンチに駆け寄ったときには、一緒に叫んでいた。
これで流れが変わった。延長戦に入ると、平山が勝ち越しゴールを挙げ、さらに石川も続いた。福岡も延長後半、丹羽のゴールで１点を返すと、試合終了まで同点ゴールを狙い続けた。大久保も必死になってゴールを目指したが、その勇戦もわずかに届かなかった。

「とにかくゴールを決めたい。そして勝ちたい」
石川は今シーズン、念仏のように、そう話してきた。「あの感覚を知っちゃうと、もう忘れられないでしょ」。昨シーズン、ゴールを積み重ねて知った確かなもの。感覚的な身体の反応と、そしてサポーターと一体になれるあの瞬間。待ちに待った時は、聖夜に解禁された。ただ、これで終わりにはしたくない。もちろん欲張りにもなる。
「これで終わりじゃ寂しいでしょ」

試合を振り返れば、F東京には足りないことだらけだ。主導権を握りながら福岡に先制され、延長戦も終盤までもつれた。でも、大人なサッカーもいいが、F東京らしく、でたらめで無鉄砲なやんちゃも悪くない。次は、国立。いたずら顔の石川サンタは、熊谷に運び切れなかった大きなプレゼントをまだまだ用意しているつもりだ。それを受け取るまで、年は越せない。

以上


2010.12.26 Reported by 馬場康平