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今節勝てば地力で3位以内を確定できる甲府。前回2005年の昇格は最終節で3位に滑り込み、入れ替え戦に進んで停電とバレーのダブルハットトリックで柏に2勝して昇格を果たしたが、今年は4試合を残して王手の状況を勝ち取っている。2005年のような爆発的な高揚感がないのは、その余裕とJ1でどう戦うのかというところまで頭の中にあるからではないだろうか。なんといっても第32節で千葉にアウェイで勝ち、余計なプレッシャーにも勝ったことが大きい。淡々と戦える。選手は「J1でプレーするのは楽しみ」くらいの話はしてくれるが、ほとんどの選手は「目の前の試合で確実にパフォーマンスを発揮し、勝って決めたい」という趣旨の話をするだけで先の話はしない。決めてから言うべきことを知っているのも経験の蓄積。試合に出ている選手、チャンスを手に出来ていない選手とそれぞれの心の中にあるものは違うだろう。少なくとも、「J1の舞台でもう一度プレーしたい」という想いを大切にして2007年の降格以降、J1挑戦を続けてきた在籍年数の長い選手の想いと経験はチームの強み。
そして、今年の先発を見れば約半数の選手は新しくチームに加わった選手。川崎Fで中村憲剛のバックアップだった養父雄仁は「自分に自信をつけるために、結果が欲しくて(甲府で)プレーしている。昇格へのプレッシャーはないが、目標に挑戦できる幸せを感じている」と甲府に来て1年で昇格を達成できる（可能性が非常に高い）喜びとその先にある挑戦に心を高ぶらせている。マイク・ハーフナーも昨年は鳥栖で33試合に出場しているが、最初の所属クラブ、J1・横浜FMでレギュラーを取れなかった想いを甲府での成長に繋げ、その先にある挑戦権を掴むために戦ってきた。在籍年数の長い選手と新しく加わった選手の力と想いが上手く噛み合って王手という状況を勝ち取っている。振り返ると、フロントはいい補強をしたものだと思うし、内田一夫監督も上手くいかない時期を我慢して乗り越えて、選手を上手く融合させた。
今節対戦する栃木は昨年J2にデビューしたチームだが、甲府は苦しめられ続けている。4回対戦して負けたことはなく、2勝2分の対戦成績だが全て僅差のゲームで栃木の粘り強さには勝点を払って勉強させて貰っている。特に、リードしたときの戦い方の難しさは徹底的に教えて貰った。主導権を取られていても、ロボが下がってボールを引き出し、パウリーニョがボールを持てば周りの選手が動き出して来て、恐ろしいカウンターが始まる。「それがやっかい」と内田監督は言う。ロボのケアと攻撃の起点となるパウリーニョにプレッシャーを掛けることは重要になるが、今の甲府はそんな消極的なサッカーをする必要はない。主導権を取りながら戦い、攻から守への切り替えのときにそれが出来ればいいだけ。
栃木の組織力は高いが、甲府がスペースを創る・使う、ボールの移動中にサポートに入るという動きの連動性を発揮してスムーズにボールを動かせば決定機を作ることは出来る。足下にボールが入ってから周りが動き出すようだと栃木の組織力の餌食になってしまうが、今の中盤はそんな時間はほとんど作らない。中盤が動けば3トップもサイドバックも動きやすくなるからいい流れが出来る。松田浩監督はそれをやらせないポイントを突いてくるだろうから、中盤の攻防は激しくなるかもしれない。そこでグタグダにならないためにロングボールをディフェンスラインの裏に入れ、クリアすべきときはクリアするという局面と時間帯の判断がある。甲府の3トップには高さと強さのマイクがいるし、スピードスターのパウリーニョがいる。ディフェンスラインの判断ミスも少ない。栃木の選手がハードプレーを最大限拡大解釈した戦い方をしたとしても、冷静さの目盛りをゼロにしないでゴールで栃木のリズムを崩して、勝って決めよう。そして、その先にある挑戦に心躍らせて喜ぼう。
以上
2010.11.13 Reported by 松尾潤
