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【第90回天皇杯3回戦 名古屋 vs 札幌】レポート:果敢に前に出た札幌だったが善戦及ばず。欠場者続出の名古屋が勝負強さを発揮し、逆転勝利で4回戦への切符を手にした。(10.10.10)

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10月9日(土) 第90回天皇杯3回戦
名古屋 2 - 1 札幌 (13:00/瑞穂陸/3,087人)
得点者:51' 高木 純平(札幌)、61' 中村 直志(名古屋)、88' 花井 聖(名古屋)
チケット情報天皇杯特集
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戦前はJ1首位を走る名古屋の絶対優位は揺るがなかったが、フタを開けてみれば不確定要素の多い試合となった。瑞穂のピッチには強い雨が降り注ぎ、気温は20度を下回った。そして何より、名古屋のメンバーが想像以上に大きな入れ替えを余儀なくされていた。スケールダウンが否めない強豪と、アップセットへの意欲に満ちた挑戦者。試合が接戦になる予感は、メンバー表を見た瞬間に確信へと変わった。

3回戦をホームスタジアムで戦うことになった名古屋は野戦病院さながら。ケネディ、田中マルクス闘莉王、金崎夢生を代表で欠き、さらには増川隆洋とダニルソンが負傷のため欠場。ブルザノビッチは高熱のため出場を回避し、楢崎正剛と阿部翔平は控えに回った。最近のベストメンバーといえる11人の中で、この日のスタメンに名を連ねたのは田中隼磨と中村直志、マギヌン、玉田圭司の4人のみ。分厚い選手層を誇る名古屋とて、この状況は緊急事態といって差し支えないものだった。

一方で、完全なる挑戦者として名古屋に乗り込んできた札幌は、対J1仕様の布陣を用意してきた。本来はMFの宮澤裕樹と高木純平を前線に配し、控えには中山雅史をはじめ5人のFWが並ぶ異様なメンバー表からは、守備重視ながらもここぞの時には攻めの一手を幾重にも想定してきたことがうかがえる。スタメンに18歳の高校生・三上陽輔が入ったのはトライアルといったところか。貴重なJ1首位との真剣勝負は、若い選手にとっては1試合以上の経験を得られるものである。

前半はそれぞれ別の事情で決定的な仕事ができず、膠着した。名古屋は慣れないメンバー構成が組織の連動性を妨げ、札幌はFW不在の布陣がゴール前での迫力に欠けた。優勢に見えたのは札幌の方だ。ゴール前に進出する回数こそ名古屋が上回ったが、高めに設定されたDFラインと積極的なプレッシングは名古屋を苦しめた。「相手がうまく中を切って外に出されている感じ。相手の守備が良かった」とは名古屋の小川佳純の弁。奪ったボールを素早くサイドに展開し、一気にゴールへと向かう攻撃はシンプルながら脅威を感じさせが、そこで本職のFWの不在が響いた。前線でうまくボールキープをしていた宮澤も高木も、シュートよりもパスワークを優先するきらいがあり、せっかくの好機を逃す場面も多かった。圧され気味の名古屋もシュート6本を放つなど反撃はしていたが、こちらはいかんせんビルドアップでのミスが多い。日本最高のDFである闘莉王のレベルは望めないまでも、この日のセンターバックコンビはいずれも対人能力に優れる潰し屋タイプ。効果的な攻撃の第一歩を踏み出せず、行き当たりばったりな攻撃が繰り返されていた。

試合は後半に動いた。名古屋は右足の負傷をおして出場していた玉田に代え、巻佑樹を投入。札幌は選手交代こそなかったものの、「監督は怒ったというか、足りない部分に渇を入れて奮い立たせてくれた」(上里一将)と指揮官の猛ゲキを受けてピッチに戻ってきていた。これら両指揮官の“策”は効果てきめん、膠着したピッチに新しい展開を生みだした。

先に結果を出したのは札幌だ。51分、オフサイドラインギリギリで右サイドを抜け出した高木純平が思い切って右足を振りぬくと、ボールはGK高木義成の脇の下をすり抜けゴールの中へ。スリッピーなピッチを利した技ありのシュートは、「あのタイミングでなければJ1の裏はつけない」と石崎信弘監督も称える高木のセンスが生み出したものだ。

しかし名古屋は焦らなかった。その理由は早い時間帯の失点だったこともそうだが、明らかに攻撃の流れができていたからだ。その基点となっていたのは巻へのロングボールだ。「前半は前にヘディングで競れる選手がいなくてロングボールが蹴れなかった」と小川が言うように、クリアや展開に窮した時にみすみす相手に渡るだけだったボールが、空中戦に強い巻のおかげで二次攻撃につながるようになった。すると61分、狙い通りの形から同点弾が生まれる。DFラインからのロングフィードを巻がペナルティエリア前で競り合うと、相手DFがクリアミス。中村が中央でそのボールを拾うと、「コースを狙った。イメージ通り」というコントロールシュートをゴール右上スミに流し込んでみせた。前半にはなかった多重的な攻撃は、指揮官の的確な交代策の賜物といえるだろう。

その後は互いに数度の決定機を外すなど再び膠着。だが延長戦も見えてきた試合終了間際に、名古屋が起死回生の一撃を札幌に見舞った。決めたのは後半途中から投入されていたMF花井聖だ。本来はトップ下、ストイコビッチ監督下ではそのビルドアップ能力を買われてセンターバックなどでも起用されていた20歳の俊英は、ボランチに入り組み立てに奔走。終盤にはゴール前のボールにも積極的に絡むようになっていた。彼の公式戦初得点が生まれたのは88分。左サイドからの三都主アレサンドロのクロスを、中央のマギヌンが頭で合わせると、DFに当たってボールは花井の前へ。背番号27が反転するような形で右足を振りぬくと、ブロックに入るDFを尻目にシュートはゴール右に突き刺さった。劇的な決勝点には本人も「あまり憶えてません」と困惑気味。名古屋の下部組織史上最高の逸材と呼ばれる男が、雨中のゲームに終止符を打った。

名古屋は前週、前々週のリーグ戦に続き、公式戦3試合連続となる逆転勝利。主力を大幅に欠く中で見せた勝負強さは、相手がJ2であることを差し引いても特筆すべきものだ。アップセットの恐怖に打ち勝ち、失うもののない相手のチャレンジを跳ね返す。この勝利は4回戦への切符を手にした以上に、チーム全体のメンタリティーが成長していることを示した意味で重要だ。札幌は善戦及ばず、ここで大会を去ることになったが手応えは十分。小気味良いパスワークと果敢なラインコントロールは見ていて爽快だった。「J1とJ2は全然違うものなので、次戦の参考にはならない」と石崎監督は語ったが、それでも選手たちの自信につながったことは間違いない。名古屋の4回戦の相手は新潟に決定した。今季は苦手としている相手だが、高いモチベーションは変わらない。
「全員が前回の決勝への思い入れがあるし、今年はその借りを返したい」。
中村直志の言葉がその何よりの証明。名古屋は天皇杯も本気で狙っている。

以上

2010.10.10 Reported by 今井雄一朗
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