9月25日(土) 2010 J1リーグ戦 第24節
広島 1 - 1 鹿島 (15:03/広島ビ/15,180人)
得点者:20' 李忠成(広島)、90'+2 大迫勇也(鹿島)
スカパー!再放送 Ch308 9/27(月)後01:00〜
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38分。鹿島が広島陣内で強烈にプレスをかけ、いわゆる「型にはめた」状態に持ち込み、横竹翔の横パスを野沢拓也の足下へと導いた。
野沢の目の前にはマルキーニョスがフリー。ダイレクトで縦パスを出せれば、決定的なチャンスだ。だが、その寸前、鹿島の思惑を水際で防いだ男がいた。抜群の位置どりを見せた森崎和幸が右足をグイッと伸ばしてパスをカット、倒れ込みながら服部公太にボールをつなげて、カウンターのチャンスを創り出した。「カズさんはいつも、重要な場所にいてくれる」という青山敏弘の言葉を立証したシーンだった。
5月5日の対磐田戦以来、慢性疲労症候群の再発によって森崎和幸はサッカーから離れざるを得なかった。9月14日の練習からチームに合流したが、実戦は大学生相手に45分間やっただけ。それなのに、彼は自然と広島の中心におさまった。チーム全体のプレーを修正し、速攻と遅攻のメリハリをつけた。「カズさんがいるとチームに落ち着きを与えてくれる」と槙野智章は感嘆する。
それでもさすがに試合開始当初は、森崎和の動きも固かった。その隙をついて、鹿島が主導権を握る。6分、小笠原満男が左サイドに展開したパスに飛び出した興梠慎三がヘッドで折り返す。
マルキーニョス、フリー。決定的だ。だがシュートは枠を外れる。
だがこのシーンは、その後に訪れる死闘のほんのプロローグに過ぎなかった。
20分、広島が均衡を破る。高萩洋次郎の右FKがドラマの幕開けだ。
クリアを青山が拾い、森崎和へ。ダイレクトで放たれたロングパスは高萩の足下にピタリとおさまる。野沢がプレスをかけてボールを奪いにかかる。その野沢に今度は青山がプレス。激しい主導権争いだ。
伊野波雅彦のクリアを、中島浩司がおさめる。左へ。槙野だ。ドリブルで中へ。シュートか。いやクロスだ。
槙野がボールを蹴るや否や、李忠成が爆発的な動きを見せる。一瞬、逆に動いて伊野波を揺さぶり、次の瞬間に前に飛び込んだ。試合前日、ペトロヴィッチ監督から大きな身振りで指導を受けていたのは、この飛び込みだった。
李忠成の2試合連続ゴールで、広島は勢いを得る。22分に李。32分には、高萩。いずれも決定的なシュートだ。しかし、そこを外してしまったことが、後に味わう痛恨事の要因である。
後半開始早々、森脇良太の決定的なシュートを曽ヶ端準がビッグセーブで防ぐ。その3分後、野沢の強烈なミドルがポストに弾かれた後、フェリペ・ガブリエルがヘッド。西川周作の素晴らしい反応に防がれはしたものの、鹿島が得た久しぶりのビッグチャンスだ。
鹿島が前への圧力を強めるも、広島もカウンターを狙う。51分、李の左クロスを合わせた高柳のループが惜しくもバーを超える。60分、カウンターから2対1の状況をつくり、森脇が決定的なシュート。スリルと興奮に満ちた試合展開に、ビッグアーチの歓声が止まらない。
63分、森崎和が万雷の拍手の中で丸谷拓也と交代。一方の鹿島も、負傷を抱えた小笠原が71分に本山雅志と交代する。両チームの大黒柱が共にピッチを去ったが、試合のテンションは全く落ちなかった。
オリベイラ監督はFWを次々と投入し、さらに岩政大樹までゴール前にあげ、「絶対に勝ち点を奪うんだ」という気迫を見せつける。広島は、驚異的な反応を見せる西川周作を中心に、集中を極限まで高めて弾き返す。汗がほとばしり、情熱を身体中から発散させながら走る両チームの選手たち。
勝たせてやりたい。この選手たちに、勝たせてやりたい。
そんな想いを募らせて声援を贈り続けるサポーターが、激闘をさらに盛り上げる。
アディショナルタイム。本山雅志がボールをキープ。この時、丸谷拓也は本山と大迫勇也、2人を同時に見ざるをえない状況になった。互いにいい距離感をとってきた広島の連係が、ほんのわずかに乱れた瞬間だ。
大迫がパスを受けた瞬間、本山は「打てっ」と叫んだ。背番号9を背負ったストライカーは、迷いなく右足を振る。
西川は反応した。一度は自分の身体に当てた。だが、弾いたボールが西川の身体に当り、後ろへ転がる。そして、白球は確かに、ゴールラインを超えた。これほどの試合を、どちらかの側だけに歓喜を与えるには忍びない。サッカーの神様がそう判断したとしか思えない、フィナーレだった。
主力の半分をケガなどで欠く広島の堂々たる闘い。素晴らしい粘りを見せた王者・鹿島。死力を尽くしてファイトした両チームの選手たちに、サポーターは惜しみない拍手と歓声を贈る。
その中でひときわ大きな声援を集めていたのが、森崎和幸だ。今もまだ病気との闘いを続ける中で、精一杯のプレーを貫いて好試合を演出した背番号8。「俺たちの誇り」という称号を与えた男の力強い復帰に、サポーターは惜しみない拍手を、いつまでもいつまでも贈り続けた。
以上
2010.09.26 Reported by 中野和也
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