9月8日（水） 2010 ヤマザキナビスコカップ
川崎Ｆ 3 - 1 鹿島　（19:00／等々力／9,406人）
得点者：32' 田坂祐介（川崎Ｆ）、33' 小笠原満男（鹿島）、79' 中村憲剛（川崎Ｆ）、88' ヴィトールジュニオール（川崎Ｆ）
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リプレイで見た中村憲剛のシュートシーンは、明晰な判断により瞬時に導き出された最適解にみえた。浮かさないように叩きつけたボールは、DFの足元をすり抜け、濡れたピッチを滑るように走り、2戦トータルでの同点ゴールとなる。
ゴール正面20mほどの距離からのミドルシュートは、それ自体素晴らしいものではあったが、スタジアムの誰もが予感していたモノだった。「何かあるね」との言葉で表現できるその予感に名前をつけるとしたら、それが等々力の魔力という事になるのだろう。

川崎Fのサポーターや報道陣。そしてもちろん選手たちが感じていた魔力を、同様に感じていたのが鹿島だった。前半32分に先制点を奪われながら、そのわずか1分後に同点ゴールをねじ込み、2戦トータルで勝ち越し。鹿島は無理に攻める必要は全くない一方で、守りに入る必要もなかった。彼らはバランスを取りつつ普通に試合を進めればよかったのである。しかし、そんな彼らに魔力がプレッシャーを与える。2戦トータルでリードして迎えた後半にオズワルド　オリヴェイラ監督が決断する。60分にフェリペ　ガブリエルに代えて中田浩二を投入するのである。この采配により守備意識の強まった鹿島は、前半の前からのプレスが影を潜めはじめる。守備へと軸足を移した鹿島に対し、最低でももう1点が必要な川崎Fは攻撃の意図を前面に出す。高畠勉監督が切ったのは、63分に稲本潤一に代えてピッチへと送り出した中村という攻撃的なカードだった。
両監督の意識は真っ向からぶつかり合い、そして川崎Fが明らかにペースを掴む。前半37分に負傷交代を余儀なくされた森勇介に代わり、ピッチに入っていた谷口博之は「鹿島は普通にやれればよかったように感じました。（彼らが）引いたことで、行けるようになりました」と試合を振り返る。リトリートした鹿島に対し、川崎Fが猛攻を仕掛けた。

そんな中、試合展開を左右する大きなアクシデントが発生する。75分に小笠原満男が2枚目のイエローカードを受け、退場するのである。これにより、鹿島の守備への転換は不可避のものとなる。自陣の深い場所にひきこもり、ただひたすらにゴールを守るためだけの守備に奔走した。試合時間は残り15分。そしてロスタイム数分間。つまりおよそ20分間を守りきるべく鹿島は逃げを打った。しかし、そんな彼らの努力はあっという間に打ち砕かれる。それは彼らが逃げるための努力を始めてからわずかに4分後の事だった。ジュニーニョが仕掛け上げたクロスのこぼれ球を、中村がねじ込むのである。

79分に決まった2戦トータルでの同点弾は、同点という状況以上の衝撃を鹿島に与えた。彼らは守りに入り、守りきれなかったのである。鹿島が心理的なショック状態の中にある一方、イケイケの川崎Fは思うがままに試合を進めた。谷口が自ら打とうとしたトラップは、トリッキーなパスとなりヴィトール　ジュニオールの足元へ転がる。置き去りにされた鹿島守備陣がどうすることもできないまま、勝ち越しゴールが決まる。88分のことだった。

両頬を殴られてじわじわと後退し、最後にストレートパンチを浴びてようやく目を覚ました鹿島はここから攻撃に転じる。戦況を見誤り、後手の対応を続けざるを得なかった、そんな鹿島を象徴するかのような最後の数分間の攻撃だった。終了間際の鹿島の猛攻をしのぎ、きっちりと試合を締めた川崎Fは、そのまま3−1で試合を終えて勝利。この結果、勝ち数が同数になったため、川崎Fが得失点差で1点鹿島を上回り、準決勝進出を決めた。
豪雨と強風の中、等々力に足を運んだサポーターという名の魔物が、その力を思う存分に発揮した試合だった。

以上

2010.09.09 Reported by 江藤高志