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Ｊ２第１４節の好カード、５位・ロアッソ熊本と６位・栃木ＳＣの直接対決は、栃木に軍配があがった。目の上のたんこぶ熊本との「決戦」（大久保裕樹）を２‐０で制した栃木は、クラブ史上初の３連勝を達成し順位を４位まで押し上げた。節目となる戦いでの勝利に、「自分達の壁を自分達で乗り越えられた」と、試合後に大久保は充足感を漂わせた。その一方で、こうも言っている。「勝って兜の緒を締めたい」。また、入江利和は「僕達の目標は３連勝で終わりではない」と、３連勝はあくまでも大きな目標到達への過程に過ぎないことを強調した。勝利への飽くなき欲求が止まることがない栃木は今節、ＦＣ岐阜を相手に４連勝というさらなる頂を目指す。未踏の地への登頂に挑む選手に緩みや慢心、過度のプレッシャーはない。目の前の一戦を全力で取りに行く。あるのはピュアな向上心と一戦必勝の思いだけだ。
１０戦無敗、５試合連続無失点の栃木は今、「０‐０ならば勝てそうな雰囲気。最悪でも引き分け」（松田浩監督）という空気を醸し出している。堅守を軸とした試合運びは栃木の代名詞となり、他チームにとっては大きな脅威だ。前節の熊本戦でも前半１５分は相手の時間帯だったが、ＤＦラインが踏ん張ると、徐々にボランチの佐藤悠介を中心にボールを動かし始め、リズムを取り戻した。中盤の底で試合の流れを読む佐藤の力は絶大だが、苦しい時間を耐え凌いだ守備力があったからこそ、崔根植のワールドクラスのミドルシュートが生まれ、流れるようなパス交換からリカルド・ロボが追加点を奪えた。
「守備の安定があるからこそゴールも生まれる」（米山篤志）
勝癖が付く中で養われた栃木オリジナルのスタイルが、Ｊ２で旋風を巻き起こせている要因であることは間違ない。
岐阜戦では熊本戦で２ゴールに絡んだ崔が出場停止。松田監督はレオナルド、廣瀬浩二、林祐征を代役候補として考えているが、３人とも好調を維持しており、ロボの相棒として誰を選ぶのか嬉しい悩みを抱えている。「乗っている」と話す廣瀬は５月２３日に行われた水戸ホーリーホックとのトレーニングマッチ、今週の紅白戦でゴールを挙げるなど存在感を強烈にアピール。結果を残した選手を使うのが今季の松田監督の方針だけに、廣瀬が最もスタメンの座に近いが、崔と同じ役割を担える林、ブラジル人同士のコンビネーションが期待されるレオナルドも捨て難く、最後まで選考はもつれそうだ。
前節３連敗から抜け出し、無失点勝利を飾った岐阜。堅牢な守備組織をストロングポイントにしている栃木に対し、その自信を打ち砕くには先制点が最も効果的なはず。先手を取れば５戦５勝というポジティブなデータを活かしたい。古巣・岐阜戦を前に高木和正が、「昨年一緒にやっていたが、相手にとってあのスピードは厄介」と警戒を強めるのは嶋田正吾。前節の水戸戦では持ち味を発揮し、背後への飛び出しから決勝点をもたらした。もう一人のキーマンに高木は嶋田へのパスを供給した永芳卓磨を挙げた。「キックの精度が高いし、いい動きをしている。卓磨にボールが入るとチームが前に出る力が強くなる」。倉田安治監督が植え付けているゾーンディフェンスで高木を、栃木の攻撃を封じ、縦横の揺さぶりからゴールを陥れ、常に先手を取る展開こそが岐阜の理想だろう。
松田監督と倉田監督はアビスパ福岡とヴィッセル神戸で６年間、監督とコーチとして濃密な時間を共有した間柄。それだけに、互いの手の内は分かり切っているはず。「勝敗を抜きに対戦は楽しみだが、コンセプトが同じだけにやり難い。向こうの方がやりやすいんじゃないかな」と松田監督は言う一方で、「自分が一番いいと思うサッカーを相手がやってきた時にどう崩すのか。それはコーチとしての命題。自分を試すことになる」と、師弟対決を前に高揚感を抑えきれない様子だった。
弟子が師を上回るのか。それとも師が弟子に経験と貫録を見せ付けるのか。松田色に染まった４‐４‐２vs.倉田色に染まった４‐４‐２。「究極の師弟対決」第１章が、幕を開ける。
以上
2010.05.29 Reported by 大塚秀毅
