5月2日(日) 2010 J2リーグ戦 第10節
横浜FC 3 - 4 甲府 (13:03/ニッパ球/8,489人)
得点者:11' 寺田紳一(横浜FC)、16' 大黒将志(横浜FC)、21' 西田剛(横浜FC)、45'+1 パウリーニョ(甲府)、57' ハーフナーマイク(甲府)、90'+1 山本英臣(甲府)、90'+4 内山俊彦(甲府)
スカパー!再放送 Ch183 5/3(月)22:30〜(解説田中孝司実況田中雄介リポーター三須亜希子)
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サッカーの試合には、どちらのチームがどの時間帯に優位を取るか、その優位がどのように移り変わるかという、いわゆる「流れ」と呼ばれるものが必ずある。もちろん圧倒的に実力差があれば、流れとは関係なく試合の結果は決まるのかもしれないが、横浜FCと甲府には、さほどの実力差はない。その場合、流れが結果に大きく影響を及ぼす。「流れ」は、選手がつかみ取ることもあれば、采配で変わることがあれば、スタジアムの雰囲気で変わることもある。この試合は、前半と後半で激しく移ろいゆく流れの中、90分間全体を通した時に、チームとサポーターで流れをうまく作った甲府が、「アウェイチームによる3点差の逆転」という劇的勝利を飾ることになる。
前半、正確に言えば44分まで、流れを完璧に支配していたのは横浜FCだった。ロングボールを中心に蹴ってくる甲府に対して、その意図に冷静に対処しながら、甲府の1ボランチの左右を使って組立を狙う。そして、意外なほど順調にゴールを重ねていく。11分、荻晃太とダニエルの連係ミスから大黒将志がボールを拾うと、大黒が上げたクロスに寺田紳一がジャンピングボレーで反応し、先制点を挙げる。さらに16分、大黒がCKをニアでピンポイントで合わせ2点目、21分には西田剛がCKからフリーでヘディングを叩き込む。11分間で3ゴールと、前節の大分戦の勝利で復活したチームの勢いを見せつける。甲府はミスで流れを手放し、横浜FCはその流れを確実に3ゴールに結びつける。横浜FCにとっては理想的な展開だった。その後は、試合が少し落ち着くが、前半を通じてセカンドボールを含めゲームをコントロールし続けたのは横浜FCだった。
しかし、横浜FCサポーターがチーム復活の狼煙を目に焼き付けていた44分、ゲームの流れに変化を与えるプレーが起こる。左CKの落下点で横浜FCと甲府の選手が交錯したところでPKの判定が出される。このPKをパウリーニョが決めて、3-1で前半を終了。このゴールは甲府に一筋の勇気を与える一方で、横浜FCの選手にとって得心できない状況を残こすことになる。
そして、「ひっくり返すには何か手を打たなくてはいけなかった」(内田一夫監督)という状況で、甲府はハーフナーマイクと石原克哉をハーフタイムに同時に投入。この交代が、前半終了間際に見出した流れを大きく甲府に引き寄せる。石原が中盤で安定感をもたらすと同時に、前半の縦中心の攻撃からサイドでしっかり組み立てる攻撃へと変化させる。さらに、トップでマイクが完璧なポストプレーを披露すると、徐々に横浜FCのディフェンスラインを押し下げていく。そして57分、金信泳からのパスを受けたマイクが冷静にゴールを決める。この2点目が、甲府への流れを決定づける。横浜FCは防戦一方となり、さらに72分にキャプテンの柳沢将之が足を攣って、根占真伍を右SBに回さないといけない状況に陥る。80分にはエデルを投入し前線で時間を作ることに成功するが、それでも全体の流れは変わらず。最後は渡邉将基まで投入し逃げ切りを図るが、ドラマはその直後のプレーに訪れる。片桐淳至が蹴ったFKの落下点の競り合いで再びPKの判定。このPKをキャプテン山本英臣が決めて同点に。そして90+4分、CKに内山俊彦が合わせて勝ち越し。前半に自ら放棄してしまった流れを後半に取り戻す大逆転劇を演じた。
後半のシュートは甲府8本に対して横浜FCが1本と、後半の流れのすさまじさを物語っている。甲府は、その底力を見せつけた形の勝利であり、選手だけでなく、横浜FCサポーターより密度の濃かった甲府サポーターを含めた力は大きかった。ただ、内田監督が「ひっくり返したからよいとはしない」と反省するように、前半の3失点は通常なら致命傷。3点を取り返せるほどに流れが変化する状況は二度と来ないと考えないといけないだろう。
一方の横浜FCにとっては、様々な意味でサッカーの怖さを味わう試合となった。マイクの迫力の前にずるずるとラインを下げて、身体能力に勝る甲府攻撃陣の特長を出しやすくさせてしまったことは、大きな反省点。ただそれ以上に、ゲームの流れをコントロールできる力をつけないといけない。サポータが目にしたのは、昇格のライバルを相手に、3-0という試合を落とすという、文字通り屈辱的な展開。前半は甲府を圧倒していただけに、気持ちの切り替えを大事にしながらも、二度とこの試合を忘れてはいけない。残りの26試合の1つ1つが、この日の屈辱を晴らす試合と思うことが大事となる。ニッパ球で、相手の監督に「ホームのようだった」と二度と言わせないこと、そして10月3日の小瀬では濃厚なリベンジを誓うこと。岸野靖之監督の「強い気持ちを持って残りの試合を大事にしたい」という思いを遂げるためには、多くの横浜FCサポーターにとって忘れられない1998年10月29日に準じる形で、この「2010年5月2日」を深く心に焼き付ける必要がある。
この試合はJ2とは思えない攻撃の応酬とドラマチックな展開であったことは確か。力をぶつけ合う姿は、チケット代に見合うものであったに違いない。両チームが、この姿を見せ続けられることを願いたい。
以上
2010.05.03 Reported by 松尾真一郎
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