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【AFCチャンピオンズリーグ2010 山東 vs 広島】レポート:地獄の日々から生還した森崎浩司の同点弾、李忠成の2発もあり、広島が劇的な逆転勝利。(10.04.14)

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4月13日(火) AFCチャンピオンズリーグ2010
山東 2 - 3 広島 (20:30/済南/8,876人)
得点者:45+1' ハン・ペン(山東)、72' 森崎浩司(広島)、79' 李忠成(広島)、85' ベンソン(山東)、90+2' 李忠成(広島)
ホームゲームチケット情報 | 決勝戦は11月13日(土)に国立競技場で開催!
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ちょうど1年ほど前、森崎浩司は地獄の淵にいた。
2008年後半から、彼は病気と戦っていた。目はかすみ、焦点が合わない。不眠症は続き、思考力が急落。動悸が激しくなり、立ちくらみがして、手足も冷たくなる。ボールを蹴るどころか、普通の生活を送ることすらできなくなった。
ある日、言い様のない焦燥感が彼を襲い、いてもたってもいられなくなった。救いを求めて薬を飲む。しかし、その薬が強すぎたのか、指示された時間外に飲んだからなのか、森崎浩は意識を失って倒れてしまった。気づいた時、彼は生きる意欲を失った。家族の前で死にたいと口走り、自分の人生を終わらせることばかりを考え、ついには喜怒哀楽といった人間の感情までも失ってしまった。笑えなくなった。涙さえ、こぼせなくなった。
本人はもちろん、家族にとっても地獄そのものの日々。そこから、森崎浩司はJリーグの舞台に戻ってきた。「ヨーロッパでもそういう病気に襲われる選手は少なくない。そして、普通はそのまま引退する」とペトロヴィッチ監督は言う。つまり、復帰したことだけでも、奇跡的なのだ。

ところが彼は、4月13日の夜、さらなる奇跡を起こした。周囲を数えきれないほどの警察官に囲まれ、迷彩服を着た軍人たちが警戒を強める。スタンドに入るゲートには金属探知機が備えられ、チェックされた人たちはチケットを持っても試合が見られない。そんな厳戒態勢の中で行われたサバイバルゲーム。それが、奇跡の舞台だ。

この試合、本来は攻撃的なタレントである森崎浩はボランチに入った。ボランチのレギュラーである兄・和幸は、連戦の疲労からベンチスタート。パートナーとして起用された横竹翔は経験に乏しい。自然と「バランスをとる」役割は、浩司が担うことになった。球際を強くいく。カウンターをケアする。最後の部分で身体を張る。浩司は慣れない守備的な仕事を必死で務めた。その下支えを受け、仲間たちはチャンスをつかむ。4分、山岸智のクロスに山崎雅人がニアでつぶれ、佐藤寿人がシュートを放つ。25分、槙野智章の縦パスに飛び出した山崎がゴールキーパーと1対1を迎える。しかし、どうしても得点できない。

前半終了間際、山東のエース=ハン・ペンの強烈なミドルによって広島は失点する。スタンドはお祭り騒ぎ。何度もハン・ペンの名前が叫ばれ、山東への祝福がスタンドにこだました。後半、1点リードの山東はブロックをつくって守りを固め、カウンターの刃を振りかざす。槙野が必死の攻撃参加を繰り返すも、ゴール前に林立する巨人たちの群れを突破できない。66分、山岸がラフプレーによって足を傷め、交代を余儀なくされた。厳しい。それでも、ゴール裏に固まった広島サポーターたちは、必死に広島への声援を続けた。72分、その想いが届く。立役者は、奇跡の男だ。

この時のことは、正直、はっきりと覚えていない。佐藤によれば「相手のミスから」始まったという。ボールを受けた佐藤がスペースにパス。そこに飛び込んでいたのは、守備に追われていたはずの背番号7=森崎浩司だった。
確かに、彼はこういう飛び出しをもっとも得意とする。しかし、まさか。あんなに深いところでプレーしていたのに、まさか。パスを受けた。左足はボールをとらえた。わざと身体を倒してコースを狙う。「そこしかない」というゴールへの道筋を、ボールは転がっていった。
メインスタンドは静寂の後、怒号に包まれた。その中を、浩司は選手たちにもみくちゃにされた。そして、最後にペトロヴィッチ監督と堅く、堅く、抱きあった。

昨年の夏、森崎浩が地獄からようやく這い上がろうとしていた頃、指揮官は彼と約半年ぶりに再会した。「浩司に会えた。そのことだけで嬉しい」と満面の笑顔を見せた指揮官は、こんな言葉を彼に贈った。
「私も、選手もスタッフも、みんな君を待っている。そして誰よりも浩司を待っているのは、サポーターなんだよ」
浩司は、泣いた。数ヶ月前は涙すら出てこなかった男が、監督に抱きつき、号泣した。その時と同じように、中国の地で再び、指揮官と森崎浩司は抱き合った。

試合はここから一気に動く。李忠成が山崎のパスを豪快に叩き込み、逆転。セットプレーから同点に追いつかれたものの、ロスタイムにルーキー・石川大徳のクロスをまたも李忠成がゲット。昨年夏の移籍以来、得点がどうしてもとれなかったストライカーがついに覚醒、広島に劇的なACLアウェイ初勝利をもたらした。そのきっかけとなったのは、まぎれもなく森崎浩司の「奇跡のゴール」だったのだ。

「ごめんなさい。今日は本当に疲れているんで、帰国したらしっかりと話します」
ヒーローは、そんな言葉を残し会場を去った。「彼はまだ、万全の状態ではない」。ペトロヴィッチ監督は言う。実際、まだ目の症状は治っていないし、眠れない日々もある。しかし森崎浩司は「絶対に治る病気だ」と信じ、その症状とつきあいながら戦っていく決意を、固めている。

「我々は確かに決勝トーナメントには進めなくなった。しかしこのゴールが、浩司の行く道を大きく拓いてくれるだろう」
ペトロヴィッチ監督の言葉を、サポーターは信じている。そして誰よりも、死の淵から立ち上がった奇跡の背番号7が、信じている。

以上

2010.04.14 Reported by 中野和也
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