スカパー！生中継 Ch180 12:50〜（解説：前田秀樹、実況：西岡明彦 、リポーター：児玉美保）
勝敗予想ゲーム20日13時締切！ | 皆の投稿で作るスタジアム情報
----------
２００８年３月20日、台風なみの暴風雨の中で湘南対広島戦は行われた。強烈な風にあおられて風下からのクリアはすべて自陣に戻され、水浸しになったピッチの上でボールは止まる。横殴りの雨が選手の身体をたたき、体感温度が限りなく０度に近づく極寒の中で体温がどんどん奪われていく。サッカーをやるに最もふさわしくない環境の中、Ｊ１昇格の有力候補だった２チームは初の直接対決を迎えたのだ。
結果は２−０。森崎浩司の直接ＦＫと槙野智章のオーバーヘッドによって湘南は苦杯を喫した。結局その年、湘南は広島に３連敗を喫し、Ｊ１復帰への情熱も水泡と帰した。
あの「暴風雨の決戦」からちょうど２年後、再び湘南は広島をホームに迎える。しかし、当時とは互いに取り巻く環境が大きく変わった。カテゴリーはＪ１となり、湘南は監督も交代し、２年前の先発メンバーで今季も試合に出場しているのは、ジャーンと坂本紘司だけ。一方の広島はAFCチャンピオンズリーグを闘う立場となり、西川周作や山岸智ら日本代表経験のある選手たちも加入。やっているサッカーに変化はないものの、当時とは熟成感が違う。
ただ、奇しくも２年前と全く同じ日付でキックオフを迎える両チームだが、互いにそんな感傷に浸るゆとりはないだろう。湘南はここまで１分１敗とまだＪ１復帰初勝利を飾っていない。前節は横浜ＦＭに29本のシュートを打たれ、内容的にもスコア（０−３）の上でも完敗。自分たちのやりたいサッカーを全くさせてもらえず、Ｊ１の壁の高さを３万人以上の観客の前で痛感させられた。
個々の力の差はもちろん、チームバランスの上でも後手を踏んでしまったわけだから、屈辱感は当然。負傷で戦列を離れていた田村雄三はスタンドで味わった完敗劇に「悔しかったし、恥ずかしかった」と言葉を落とすが、その想いは試合に出ていた選手たちはさらに強いはず。当然、広島戦での勝利に向けてモチベーションは高くなる。「横浜FMに完敗した湘南の選手たちは、自分たちのホームで強い気持ちを持って我々に挑んでくるだろう」と広島・ペトロヴィッチ監督も警戒を隠さない。
一方の広島にしても、神戸戦で今季初勝利を飾ったとはいえ、大きな試練はここから。湘南戦の翌日、ＡＣＬの対アデレード戦のためオーストラリアへと、10時間を優に超える移動。水曜日の試合を終えた後に帰国し、翌週の火曜日にホームでのＡＣＬ戦。週末には広島から山形まで移動してＪ１を闘う。移動に次ぐ移動、試合に次ぐ試合が彼らを待っている。さらに、そういう状況にも関わらず、故障者がまたも続出。高萩洋次郎が神戸戦で右膝内側側副じん帯損傷の大けがを負い全治８週間。また成長が期待されているボランチの岡本知剛も練習中に右足を捻挫、全治３週間と診断された。特に前節、美しいゴールを決めた高萩の負傷は「調子があがってきた」と指揮官も認めていただけに、チームに与えた打撃も大きい。
ただ、その大ピンチを救う救世主になりそうな存在もいる。今季、Ｇ大阪から期限付き移籍で広島に加入した山崎雅人だ。トルコキャンプ中の練習試合で右第五趾基節骨を骨折し離脱したものの、その後は必死のリハビリを続けて今週の練習からチームに復帰。水曜日の広島修道大戦ではさっそくゴールを決め、持っている能力の確かさを披露した。同年代の佐藤寿人や森崎浩との連係も初めてとは思えないほどスムーズにこなし、「足の状態はもう大丈夫。前節はいい形で勝っているので、その流れを止めたくない」と試合出場への意欲をギラギラと現している。
復帰が期待される選手は、湘南にもいる。横浜FM戦の完敗に悔しさを露にした田村と、湘南の右サイドにおける絶対的な存在の臼井幸平である。危機察知能力が高く、力強い守備で相手の攻撃を潰す田村がアンカーに座れば中盤に安定感が増し、昨年は出場停止の１試合をのぞく全試合に先発出場を果たした臼井が戻れば、右サイドの攻撃は活性化する。今週の練習からチームに戻った彼らの出場は確定的ではないが、２人の存在の大きさは誰よりも反町康治監督が認識しているはず。横浜FM戦での完敗を受け、先発メンバーのテコ入れを示唆したという指揮官が決断を下す可能性も少なくない。
Ｊ１復帰初勝利をつかみ、屈辱を晴らしたい湘南。連勝で勢いをつけて、ＡＣＬに向かいたい広島。どちらにも「勝たねばならない理由」はある。あとは、その理由をどれだけ自分たちの心身に刻み込むことができるか。互いに陥っている厳しい状況を跳ね返すためには、まずはそこが必要条件となる。
以上
2010.03.19 Reported by 中野和也
