3月10日(水) AFCチャンピオンズリーグ2010
浦項 2 - 1 広島 (19:30/浦項/10,293人)
得点者:54' HWANG JAE WON(浦項)、89' ストヤノフ(広島)、90+2' ALMIR LOPES DE LUNA(浦項)
ホームゲームチケット情報|決勝戦は11月13日(土)に国立競技場で開催!
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ついに、爆発した。槙野智章のドリブルである。
昨年は開幕戦から次々とオーバーラップを披露し、8得点をマークした広島の若大将。しかし今季は、ここまで槙野らしい攻撃参加が少ない。理由は様々あるが、広島のコンビネーションに若干のズレが生じている現状では、槙野があがる時間を稼ぐことが難しい。
しかし、もうそんなことは言っていられない。3トップ気味の布陣で圧力をかけてくる浦項の戦術は、彼の攻撃参加を牽制してきた。だが1点をとらなければ、負けてしまうのだ。槙野は決然と前へと走った。
それまでの試合でも、あるいはこの日も、何度か前に走ってはいた。しかしそれは、縦に激しくドリブル突破を図ったのではなく、コンビネーションを狙ってのもの。しかしこの時、残り時間が3分を切った段階での槙野は、決然と縦に突き抜けた。そのスピード、その迫力にそこまで堅守を誇っていた浦項DFは破られ、守備に戻っていたFWアウミール(ALMIR)が思わず手で引っ張った。もんどりうって倒れる槙野。笛が鳴る。PKだ!
ガッツポーズで歓喜を全身に現す背番号5。すぐそばで声をからしていた広島サポーターも大騒ぎだ。1万人以上を飲み込んだ浦項スティールヤードで騒いでいるのは、その一角のみ。ストヤノフの冷静なキックが決まると、静けさはさらに深まった。
冷静でいなければ、と思いつつ、筆者も記者席で思わずこぶしを握った。前半から浦項の圧力に苦しみながらも、球際で必死に闘い、シュートに対して身体を張り、ギリギリまで押し込まれてもなお、決定的に崩されたシーンはほとんどなかった。セットプレーで失点して以降もチームは我慢し、佐藤寿人や李忠成が決定的なチャンスを迎えてもいた。
浦項のホームスタジアムはサッカー専用。記者席は2階スタンドにあるのだが、急勾配の傾斜のためか、ピッチで躍動する選手たちがすぐそばに感じられる。だからなのか、チームとして決してうまくいっていない状況でも必死で闘っている選手たちに、どんどん感情移入していけた。
勝たせてやりたい。せめて、勝点1をとらせてやりたい。
だが、その想いは同点からわずか3分後、打ち砕かれる。どうしてもホームで3ポイントを取りたい浦項はキム・テス(KIM TAESU)に代えてファン・ジンスン(HWANG JINSUNG)を起用。彼が投入されたのは、ハーフウエイを過ぎた場所でFKを得た直後だ。思い出すのは、第1節。山東魯能に決勝点を決められた時も、相手選手が交代した直後のセットプレーだった。
ロングボールが入れられる。
「クリアできる」
とっさに、そう感じた。だが、飛び込んできた西川周作はボールに触れず、ストヤノフが競ったボールはフワリと中空へ。再び競る赤黒と白のユニフォーム。そして最後にボールに触れたのは、広島にPKを与えたアウミールだ。西川という主を失ったゴールに、アウミールのヘッドに触れたボールがゆっくりと落ちていく。
歓声が爆発したメインスタンド。2階席では迷彩服を着た軍人たちが踊りだす。鳴りものが鳴り響き、ホームチームの勝利を確信したがごとく、選手たちに歓声が降り注ぐ。
陰鬱な気持ちで、ゴール前に目を移す。白いユニフォームを着た選手が一人、倒れていた。突っ伏して立てない。西川が肩に手をかける。ゆっくりと身体を起こした。槙野だ。フラリ、フラリ。足下がおぼつかない。衝撃は、若き主役をうちのめした。
論理的に考えれば、まだロスタイムがわずかでも残っている以上、走ってでもポジションに付くべきだ。しかし、彼らはロボットではない。傷つけば真っ赤な血が噴き出す人間である。そしてサッカーとは、そんな人間たちが自らの能力と感情をぶつけあうからこそ、人の心を揺り動かす。
試合後、ストヤノフが「冗談じゃない。もっと学ばないといけない」と声を荒げ、その激しさがミックスゾーンに響き渡った。繰り返されるセットプレーの、そしてロスタイムの失点。コンディションにばらつきがある状況ながら、全員が必死に頑張っていることはわかる。だが、一歩ずつでも前に進むためには、同じ過ちを短期間に繰り返してはならない。アジアチャンピオンをあと一歩まで追いつめ、慌てさせたことも事実だが、結果は2−1。「善戦」は結果ではない。
11日の朝早く浦項を立ち、釜山空港から福岡経由で広島へと戻る。14日にはまたもアウェイで神戸戦。広島でゆっくりと身体を休める時間もない。厳しい状況はまだまだ続くが、「あと一歩まできている。そこから先を全員で頑張れば、1を3ポイントに、0を1ポイントに変えられる」と森崎和幸は厳しい表情ながら、今後に向けての考えを表明した。「自分たちから崩れることだけは、避けないと」。何度も味わった苦境の経験が、チームの司令塔に「今、やるべきこと」を思い起こさせている。
以上
2010.03.11 Reported by 中野和也
J’s GOALニュース
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