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【J1:第1節 広島 vs 清水】レポート:紫とオレンジの戦士たちが繰り広げた壮絶な我慢比べ。90+3分、大前元紀のリーグ戦初得点が生み出した歓喜と落胆。(10.03.07)

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3月6日(土) 2010 J1リーグ戦 第1節
広島 1 - 1 清水 (14:04/広島ビ/16,216人)
得点者:3' 佐藤寿人(広島)、90'+3 大前元紀(清水)
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今季から導入された時間表示でいえば、90+1分。高萩洋次郎のクリアしたボールを清水DF岩下敬輔が拾った。奇しくもほんの1分前、岩下は高萩のあごを突いて倒し、警告を受けている。サッカーというスポーツは、時にこういう小さな因縁を生み出すものだが、それも次のドラマがあるからこそ、映えてくる。

岩下の縦パスを受けたヨンセンがそのまま突進する。身体を張って阻止するのは、槙野智章だ。槙野は腕と肩を入れて重心を下げてボールをキープしようとする。ヨンセンは肘を使って身体を前に持ってこようとする。肉体をぶつけ合う壮絶な闘い。二人とも、もんどりうって倒れ込む。副審がフラッグを振り、槙野のプレーをファウルと判定した。
「えっ」という雰囲気が広島に漂う。「むしろ、相手側のファウルだと思っていたから戸惑った。でも審判の判定は絶対だし、そこでアタマの中をクリアにしないといけなかった」と西川周作は悔しそうに言葉を落とす。ただ、その判定の是非はともかく、両者が死力を尽くしてこの局面を闘ったことは事実であり、そういう激しさの一つ一つの集積が、サッカーにスリルを与える。スリルのないスポーツなど、誰も興奮しない。
藤本淳吾のFKは、鋭かった。ニアに立ったストヤノフの頭を越し、ヨンセンをおとりに使って、正確にボールを中央に落とす。この時、ニアに走ったヨンセンと辻尾真二に広島の守備陣が4人引っ張られ、もっとも危険な位置にいた大前元紀がフリーになっていた。

大前の動きに対応すべく西川はやや前に出たが、ヘッドに叩き付けられたボールは彼の脇をすり抜けてネットを揺らす。飛び上がって全身で歓喜を現す大前に岡崎慎司・小野伸二が抱きつき、オレンジの戦士たちがもみくちゃにする。一方、紫の戦士たちはドラマの現場にただ立ち尽くした。残酷なほど、そのコントラストは明快だ。
流通経済大付属柏高時代は高校総体・高円宮杯・選手権と3大会全てで得点王を獲得する快挙を達成し、鳴り物入りで清水に加入した大前だったが、カップ戦でゴールは決めているものの、過去2年間のリーグ戦出場はわずか2試合。しかし、チャンスを与えられなくても黙々と自主トレーニングに励み、自分の能力に磨きをかけていたという。そんな努力を知っていたのだろう、長谷川監督は新潟とのプレシーズンマッチで彼を先発で起用、今日も「点をとってこい」と送り出した。

それにしても開幕戦という重圧のかかる場面で、90+3分にリーグ戦初ゴールを決めるとは。スターとは「運」と「エピソード」を持っている人物のこと。その定義からすれば、彼は十分にスターの資格を持っている。
 記者会見場に現れた広島・ペトロヴィッチ監督は憔悴していた。
 「こういう状況で何かを冷静に語るのは難しい」。
ショックを受けたことを正直に語る指揮官のほほは紅潮し、目を何度もしばたたかせた。
昨年見せたような美しいと創造性に富んだサッカーをやりきったわけではない。数多くの主力の離脱に加え、復帰した選手たちの状態はまだ発展途上で、クオリティも完全には出し切れない。しかし、それでも広島の選手たちは必死に走り、球際を闘い、全力を尽くした。特に前半は清水を内容で上回り、チャンスを何度も創った。後半は清水の圧力の前に押し込まれはしたが、クロスの雨も落ち着いて跳ね返す。与えた決定機は58分、小野伸二のクロスに飛び込んだ兵働昭弘のヘッドくらいで、7本与えたCKも西川を中心に弾き返す。うまくいかない状況を必死で我慢し、全力を尽くして頑張り抜いた選手たちに思いをはせ、指揮官はいたたまれなくなった。

一方、長谷川健太監督もまた、最後まであきらめずに闘った選手たちに「感謝したい」と言葉を贈った。4-3-3の新システムが完璧に機能したとは言いがたいが、新しい形をモノにするには、相応の時間を必要とする。それよりも前半の厳しい時間帯をPKの1失点たでしのぎ、後半は相手を押し込み続けたことに成果を感じていた。クロスは何度も跳ね返され続けたが、それでも徹底して横から攻め続けた。その継続が同点劇につながったこともまた、開幕戦の成果だ。

広島側はショックを隠すことができず、清水側は安堵の表情を浮かべた3月6日のドラマ。ただ、この劇的な開幕戦に酔い、あるいは嘆き続ける時間はない。長谷川監督は「次のホーム開幕戦につなげたい」と語り、ペトロヴィッチ監督は「追いつかれはしたが、ポジティブな部分も見えた」とコメントした。開幕戦は、統計上では1/34。しかし、その1/34が今後のシーズンに与える影響も、それをポジティブに変換していかねばならない必然性も、二人の名将はよくわかっている。

以上

2010.03.07 Reported by 中野和也
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