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【J1:第32節 広島 vs 名古屋】レポート:2009年11月21日、広島ビッグアーチ。楢崎正剛と森崎浩司、それぞれの復活の物語(09.11.22)

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11月21日(土) 2009 J1リーグ戦 第32節
広島 0 - 0 名古屋 (17:04/広島ビ/13,728人)
スカパー!再放送 Ch180 11/22(日)22:30〜(解説:沖原謙、実況:君崎滋、リポーター:掛本智子)
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2人の男がピッチに復帰した。その事実が、両チームのサポーターの心を揺さぶった試合であった。
1人は、名古屋のみならず日本の守護神といっていい楢崎正剛である。8月23日の対G大阪戦で左手甲を骨折して以来、約3ヶ月ぶりの実戦復帰となった背番号1だが、そんなブランクなどまるでなかったかのような安定ぶりだ。
33分、森脇良太のループシュートがバーに当たった後に飛び出した服部公太の強烈な左足シュートを指先ではじき飛ばす。85分、柏木陽介が放ったシュートは「入ったかと思った」と柏木自身も手応えを強く感じた一撃。しかし楢崎は、落ち着き払ったポジションどりで跳ね返す。
圧巻は、なんと言ってもロスタイムに見せたスーパーセーブだ。中島浩司のミドルシュートが増川隆洋に当たって浮かんだボールに、李忠成が飛び込みフリーでヘッドを放つ。この時、楢崎は一度、前に飛び出そうとする。しかし、瞬時の判断で足を止め、シューターとの適切な距離を取り直して準備した。李が至近距離から放ったシュートを、彼は後ろ斜め方向にジャンプしながらも、自信を持ってキャッチ。この技術の高さが広島に最後のCKのチャンスすら与えず、試合を終わらせた。ボール支配率で上回りながらも決定的なチャンスを決められず、苦境ら陥った名古屋を救ったのは、間違いなく楢崎正剛だ。
「(楢崎は)動いてくると思ったのに、止まっていた。決まったと思ったのに」と李忠成は悔しさをあらわにする。また柏木も「楢崎さんはポジション取りも駆け引きも巧い。さすが、という感じ」と名古屋の、いや日本最高の守護神の力に脱帽。一方、名古屋の若き才能・吉田麻也は「最後のセーブは、さすがナラさん(楢崎)。ただその他は、ナラさんなら普通のプレー。ナラさんには絶対的な信頼を置いているし、僕らは思いきった守備ができる」という表現で、戻ってきた背番号1のプレーを絶賛。ストイコビッチ監督も「パーフェクト」と最大級の賞賛を贈った。
ただ吉田も指摘するように、3ヶ月という長期離脱からの復帰初戦で自分のプレーを表現することが、いかに難しいか。離脱している間もできる限りのトレーニングを自らに課し、常に実戦をイメージしながら日々取り組むプロフェッショナルな姿勢なくして、これほどのパフォーマンスは生まれない。
「カメラの多さに緊張した」とジョークで笑わせる余裕を見せた楢崎だが、一方で「冷静さを失わないように心がけた。やってみないとわからない部分もあった」と緊張状態にあったことも告白した。しかし、そんな不安など全く感じさせない圧倒的なパフォーマンス。史上初のJリーグ公式戦100完封を達成、選手たちの総意により8年連続でキャプテンに選出される絶対的な信頼感を持った文字通りの守護神は、プレーそのもので復帰を高らかに宣言した。

もう一つの復帰の物語が、この日は存在した。昨年12月20日以来、約11ヶ月ぶりにメンバー入りを果たしたその男がピッチに登場したのは89分。双子の兄・森崎和幸との交代だった。
森崎和は、弟の左腕にキャプテンマークを自ら巻き付ける。一度は辞退した弟に「いいから」と半ば強引に腕章を身につけさせた。その時、広島ビッグアーチに地の底からわき上がるような大歓声が巻き起こり、その大声援に背中を押されるかのように、森崎浩司はピッチに立った。
ボールには、ほとんど触れなかった。しかし試合後、ペトロヴィッチ監督は「浩司の復帰は、我々にとっての勝点3だ」と口にする。
重度のオーバートレーニング症候群に陥った森崎浩は長く寝たきりの状態に陥り、電話をとることすらかなわず、人と会うこともできなくなった。普通の生活すら送れない状況に、プロサッカー選手としての復帰など求める方が酷だった。
それでも、彼は戻ってきた。約8ヶ月間にわたる闘病生活に打ち勝ち、その後のリハビリにも耐えぬき、体調の揺れ動きに対する不安との闘いにも勝利して、森崎浩司はプロサッカー選手としてサポーターの前に戻ってきた。その素晴らしさがわかっているからこそ、ペトロヴィッチ監督は賞賛したのである。
試合後、11ヶ月ぶりに「世界一のサポーター」(森崎浩)に向かって挨拶をした背番号7は、サポーターの万雷の拍手に思わず涙をこぼした。その涙の重さを、同じように苦しい闘病生活を送ってきた兄・森崎和幸だけは、理解している。
「本当によく頑張った」
2000年のデビュー以来、兄が弟に対してこんな言葉を口にしたのは初めてのこと。生き地獄という表現すら小さく思えるほどの苦境から立ち直った男はこの日、様々な人への感謝の想いを胸に「サッカー人生の再スタート」を切ったのである。

以上


2009.11.22 Reported by 中野和也
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