スカパー!生中継 Ch180 16:50〜(解説:沖原謙、実況:君崎滋、リポーター:掛本智子)
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■リーグ戦上位クラブ 直近3節の試合結果と次節対戦相手
第29節 | 第30節 | 第31節 | 第32節 | 第33節 | |
広島 | △2-2 G大阪 | ●0-7 川崎F | ○1-0 大宮 | 名古屋 | 磐田 |
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「今季は一度たりとも、ベストメンバーで戦ったことがない」
これが、今年のペトロヴィッチ監督の口癖である。
例えば、広島にとって「必要不可欠」な人材である森崎和幸・ストヤノフの二人がそろって出場したのは、開幕からの8試合のみ。森崎和が慢性疲労症候群による長期離脱から復帰すると、今度はストヤノフが内転筋の痛みのため長期欠場中だ。
さらに「広島のエンジン」青山敏弘が左足半月板を損傷し全治4〜5ヶ月。右サイドの「スピード・スター」ミキッチがグロインペイン症候群手術のため、残り試合の出場は絶望。今季の広島がこんな誤算の連続であったにもかかわらず勝点49を積み上げた実績は、高く評価すべきものだろう。
ただ、歴史上やまなかった雨はないように、厳しい状況に耐え続けていれば、希望は見えてくる。その象徴とも言うべき出来事が、森崎浩司の戦線復帰だ。
昨年12月20日、天皇杯準々決勝対柏戦以来のベンチ入りとなる背番号7だが、実はこの時から彼は、オーバートレーニング症候群の症状に悩まされていた。年が明けると症状はさらに悪化、「寝たきりだった」と彼自身が表現するように、起き上がることもできない状況に追い込まれた。
「復帰なんて、今はとても考えられない。今はただ、弟が普通の生活ができるようになってくれることだけを願うだけ」
4月頃、兄・和幸が浩司を思ってつぶやいた言葉だ。この凄絶な言葉こそ、当時の森崎浩司が直面していた闘病生活の苦しさを物語っている。
そんな絶望的な状況から、森崎浩司は戻ってきた。8月17日、ゆっくりと歩くことから始めたトレーニングは、やがてジョギングからダッシュへと変わった。11月に入って実戦練習に合流すると、「頭が疲れる」と言いながらも笑顔を見せ、サッカーの楽しさに身体中をゆだねていた。「日に日にプレーは良くなっている」と確認したペトロヴィッチ監督は、水曜日に名古屋戦のベンチ入りを打診。「評価されたことの嬉しさが8割、不安が2割あります」と答えた森崎浩に対し、指揮官は「その2割を打ち消すために、私が背中を押そう」と語り、彼のメンバー入りを決めたのである。
もちろん、まだ先発は無理だ。しかし、昨年は攻撃の中心として14得点7アシストをゲットし、歴代の監督がその技術の高さとサッカーにおける知性を高く評価してきた背番号7がベンチにいるだけでも、広島の選手たちには勇気を与える。2001年9月29日の対福岡戦で途中出場からファーストタッチでプロ初得点を奪っているように、短い時間であっても彼は流れを変えることができる。直接FKの威力を含め、その左足の破壊力は名古屋に脅威を与えうるはずだ。
一方の名古屋も、負傷者には悩まされ続けている。今節も玉田圭司が日本代表の南アフリカ遠征で足首を傷め、欠場が濃厚だ。しかし、腰痛のケネディや右足太もも痛を訴えていたマギヌンも練習には復帰しており、広島戦への出場が濃厚。8月23日の対G大阪戦で左手甲を骨折した守護神・楢崎正剛も広島戦で復帰することも、名古屋サポーターにとっては感慨深いはずだ。
圧倒的な高さを誇るケネディ。攻守に走り回り、2列目からの飛び出しでゴール前を脅かすマギヌン。抜群の技術を見せつけるブルザノビッチに、昨年のJ新人王・小川佳純。Jトップクラスの豊富なタレントを抱える名古屋だが、今季はAFCチャンピオンズリーグによる過密日程と多数の負傷者、チーム得点王のダヴィがシーズン途中で移籍する「アクシデント」にも苦しみ、J1リーグ戦では既に優勝の望みを断たれ3位に入ることも厳しい。まだACL圏内到達の可能性を残す広島と違い、リーグでの闘いに目標を打ち立てにくい状況ではある。しかし、最後のタイトルマッチ=天皇杯へ勢いを加速させるためにも、残り3試合に全力を投入する構えだ。
スタイルは異なるものの、双方ともイビツァ・オシム系統の攻撃サッカーを基軸としているだけに、サッカーの持つ美しさを楽しめることは間違いない。一方で、森崎浩に代表されるような個々の物語に目を転じても、この一戦は味わい深い。盛田剛平とケネディが見せる日豪高さの競演。同世代を代表するDF=槙野智章と吉田麻也の対決や、共に長期離脱を経験している森崎和と三都主アレサンドロのマッチアップ。共にレッドスター・ベオグラード育ちの指揮官=ペトロヴィッチとストイコビッチの采配にも注目したい。さらに上位を目指すために勝敗にこだわることはもちろんではあるが、それぞれのストーリーに想いをはせてピッチ上の闘いを見つめてみても、この一戦は興味深いはずだ。
以上
2009.11.20 Reported by 中野和也