10月24日(土) 2009 J2リーグ戦 第47節
熊本 1 - 0 湘南 (13:03/水前寺/2,835人)
得点者:69' 矢野大輔(熊本)
スカパー!再放送 Ch181 10/26(月)10:00〜(解説:池ノ上俊一、実況:山崎雄樹、リポーター:吉田明央)
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松岡康暢の出場停止を受け、スタメン出場が2試合目となる熊本の左SB・網田慎が、キックオフの笛が鳴る直前に両手で自分の顔を思いっきりひっぱたいた様子が見えた。その網田の経験の浅さを、福王忠世らの最終ライン、そして原田拓、吉井孝輔のボランチ、同サイドの西森正明など、チーム全員でカバーしようという思いは、網田自身も話しているように少なからずあったには違いない。それにしても、湘南の動きが全体的に良くなかった事を差し引いても、この日の熊本は素晴らしかった。
「前半を我慢して、後半にセットプレーでも何でもいいので1点取れれば、ゲームが動いて楽しい試合ができるかなとは思っていた」と北野誠監督が話した通り、ベンチに3人のFWが控えていた熊本には思い描いた通りの展開。もっとも、湘南にもそうさせないだけの場面は前半から何度か訪れてはいた。しかし、「ぬるま湯に浸かってる雰囲気が全体に伝染してると、『こりゃ普通入るだろ』というのが全然入んない」(湘南・反町康治監督)。
湘南が迎えた最初のチャンスは4分。中盤の寺川能人からの浮き球が高く保っていた熊本のDFラインを越え、抜け出した田原豊が頭で狙うがポストの右。13分にも右サイドから崩して最後は中村祐也がシュートを放つもGKにキャッチされる。43分には阿部吉朗からのパスを受けた中村が再び狙うがこれも枠を捉えられない。特に坂本紘司が中盤でよくボールを奪っては左右に広げてチャンスに絡んでいたが、熊本の原田、吉井の両ボランチがDFラインの前のスペースを締め、田原には福王と矢野大輔が体を寄せ、サイドに出ればDFとMFで挟み込んでボールを奪うなど、熊本の守備も湘南の攻撃のリスクを少しずつ削いでいた。攻撃に関しては、網田、市村篤司の両サイドバックが積極的に絡んで、練習でも念入りに取り組んでいたアーリーぎみのクロスに繰り返しトライしていい場面は作ってはいたが、中に詰める選手となかなか合わず、前半に作った決定機は1度だけだった。
湘南は後半、中村に替えてJリーグ初ゴールを熊本から奪っている菊池大介を投入。前半にも増して前に圧力をかける。だが熊本の最終ラインは、ボールの出し手にしっかりとプレッシャーをかけるのと連動して対応。55分頃までは押し込まれていたものの、それでも基本的には恐れる事なくラインを高く保ち続けた。チャンスを決められないと流れが変わるのは必然で、60分に木島良輔を投入した前後からは、一方的に熊本が厚みのある攻撃を見せ始める。
きっかけは67分のプレー。原田、西森とつないで藤田俊哉が送ったクロスを湘南GK野澤洋輔がパンチングで逃れ、熊本は右CKを得る。1本目のキッカーは左利きの原田。ファーサイドにいた矢野が一度は収めたがもたついたものの、今度は左CK。この2本目は合わなかったが、湘南DFのクリアがゴールラインを割る。そして三たび得たCKのチャンス、西森の巻いてくるボールに、ジャーンを外してフリーで飛び込んだのは矢野。ここ数試合、やられ続けていたセットプレーで熊本が先制する。
リードされた湘南は、72分に阿部を下げて前節も仕事をしたアジエルをピッチへ送ると、80分にはそのアジエルから出たスルーパスを受けた臼井幸平がGK木下正貴までかわしてシュートを放つがクロスバーを直撃。その後はジャーンを前線に残してパワープレーに出たが、熊本も76分に宇留野純、82分に中山悟志と前線にフレッシュな選手を送り、納まりどころを作って時間を使うだけでなく、逆にカウンターからの追加点を狙う。85分以降は完全に湘南が前がかりになって4分と表示されたロスタイムには立て続けに田原がシュートを放つなど、前節のドラマ再演の匂いも漂わせたが、いずれも同点弾とはならず。まさしく昨シーズン40節を思い起こさせる展開で、熊本が逃げ切った。
湘南にしてみれば、熊本以上に決定的な場面を作っていた事を考えれば、また甲府との勝点差を広げる上でも、どうしても勝たなくてはいけなかった試合だが、「どっか心に隙があったことは間違いない」と反町監督。だが、大事なのは残り4試合。熊本に敗れて後退し再浮上できなかった昨シーズンと同じ轍を踏まないためにも、この一戦を良薬としなければならない。明治大に敗れた事で天皇杯3回戦がなく次節まで2週間。再度「しっかり気持ちを引き締め直して」(阿部)、最後まで戦い抜きたい。
熊本はこれで今シーズン3度目の連勝。この時期に上位の湘南に勝ったという出来事そのものは昨年と同じだが、それでも自身やチームの反省点を口にする選手たちの表情は、昨年と比べるとずいぶん頼もしく感じられた。得点はリスタートからのものではあったが、決して守備的な戦い方を選択したわけではなく、自分たちの持ち味であるパスサッカーを堂々とぶつけ勝利を手中にしたことに意味がある。「熊本スタイル断固支持!」——ゴール裏に掲げられた即席の横断幕に書かれたサポーターの思いに応えるには、最後までその信念を貫くことだ。1週間後、台風の影響で延期されていた44節の愛媛戦に、チーム初の3連勝がかかる。
以上
2009.10.25 Reported by 井芹貴志
J’s GOALニュース
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