6月3日(水) 2009 J2リーグ戦 第19節
湘南 3 - 3 熊本 (19:03/平塚/3,797人)
得点者:15' 西弘則(熊本)、18' 西弘則(熊本)、38' 寺川能人(湘南)、44' チョソンジン(熊本)、62' アジエル(湘南)、89' ジャーン(湘南)
スカパー!再放送 Ch183 6/4(木)20:00〜(解説:三浦俊也、実況:田中雄介、プレーヤー解説:名波浩、リポーター:児玉美保)
☆勝敗予想ゲーム
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北野誠監督が用意した策は、4−1−4−1の最前線に司令塔の藤田俊哉を据えるゼロトップだった。熊本はキープ力に長けるこのベテランにボールを預け、2列目の飛び出しを促す。11分には中盤の底を取り仕切る石井俊也から藤田に収め、石井とふたりのセンターバックを残して全フィールドプレイヤーが攻めに向かっている。スペースを嗅ぎわけ、自在にポジションを移動させる藤田を中心に前の5人が流動的に動く。そうして後手を踏む湘南の対応を尻目に、熊本は奇襲のインパクトをそのままゴールまで結ぶのだった。
15分、自陣で奪うとカウンターに転じ、ふたたび藤田に収める。右サイドを駆け上がったのは、序盤から積極的にシュートを狙い、11分の場面でもヘディングシュートを放っていた西弘則だった。藤田からのパスをトラップするや、すかさず左足を振りぬく。首位チームの出鼻を挫く鮮やかな先制弾は、自身のJ初ゴールでもあった。攻撃の手を緩めぬ熊本はさらに3分後、宇留野純の右クロスから得点機を迎えた。スペースに走りこんだ藤田がワンタッチで粋に落とすと、ふたたび西がマークを振り切りねじ込んだのである。
2点のビハインドを負った直後、反町康治監督が動いた。坂本紘司と田村雄三がダブルボランチを組み、寺川能人が右サイド、アジエルがトップ下に回り、4−2−3−1のシステムに移行する。いわゆるバイタルエリアへの侵入を防ぎ、落ち着きを取り戻した湘南は38分、アジエルからのパスを田原豊が身を挺して落とし、動き出していた寺川が相手DFをかわしながら冷静にゴール隅を突いた。守備を安定させた湘南はさらに相手の背後への揺さぶりをかけ、シュートを撃ち、攻勢を強めていく。がしかし、前半ロスタイム、コーナーキックからチョ・ソンジンがこちらも初となるゴールを沈め、熊本がふたたび引き離した。烈火のごとく攻め入り、今季初めてコーナーキックからゴールを奪ったことも踏まえれば、前半終了の笛が鳴るや思わず北野監督が手を叩いたのも頷ける。
これまでの他チームの湘南対策を振り返ると、守備面、すなわち、湘南の攻撃をいかに封じるかに力点が置かれていることが多かった。自分たちのストロングポイントを棄ててでも守備に注力するチームさえあるなかで、しかし熊本は攻撃の特長を最大限に生かすべく策を講じてきた。潔しという他はない。ただ惜しまれるのは、90分間の結果に結べないところである。
「向こうが45分で3点取ったのだから、うちも45分で3点取れる」そう指揮官に送り出された湘南は後半、さらに攻勢を強めていく。オフサイドに絡み取られる場面もありながら裏への侵入の頻度は増し、53分にはアジエルのスルーパスから田原がフィニッシュまで持ち込んでもいる。62分のPKはまさしくその形から手にしたものだ。アジエルのパスに田原が抜け出し、ペナルティエリアでファウルを取ったのである。
時を追うごとに熊本の選手たちが足を引きずる場面が増えるなか、湘南は寺川の左クロスに坂本とアジエルが相次いで滑り込むなどして攻め立てる。敵のカウンターを防ぎつつ、終盤にはジャーンも前線に構えた。そしてロスタイム、同点機は訪れる。アジエルのフリーキックから、後半開始とともに投入されていたトゥットが折り返す。臼井幸平の強烈な右足は一旦はブロックされたものの、こぼれ球をジャーンが詰めた。思えば前半ロスタイム、セットプレーから一撃で仕留められたのは湘南にとって今季初めてのことだった。拳を叩きつけて悔しがったジャーンが、起死回生の同点ゴールを最後の最後に決めてみせたのだった。
熊本は前半、こと20分間の戦いがあっぱれだっただけに、後半の失速が悔やまれる。一方の湘南は、序盤に浮き彫りとなったピッチ上の修正力が今後の課題と言えるだろう。総合型スポーツクラブたる湘南らしくトライアスロンに例えるなら、最初のスイムが抜群だった熊本に対し、スイムの劣勢をバイクとランを併せた総合力をもって湘南は捲った。熊本には逃げ切る脚力が求められ、かたや湘南は脚力も心肺も鍛えられているが、息継ぎの際にも全体を見渡せる眼が備われば勝負強さはさらに増す。
「サッカーは90分の勝負」とは、このゲームに限らず反町監督が日ごろから口にしている言葉である。日本サッカーの向上をつねづね念頭に置いている指揮官のことだ。互いの、ひいては係わるすべての切磋琢磨があればこそ競技力は向上をみる。指揮官の言葉の根底には、常にその想いが流れているに違いない。
以上
2009.06.04 Reported by 隈元大吾
J’s GOALニュース
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