試合後のレベルファイブスタジアムの監督記者会見場は様々な空気が混じり合う。一番和やかなのはアビスパが勝った時、在福の記者たちが明るい表情で試合を振り返るからだ。話題に上がるのは、勝利に直結したプレーや、決勝ゴールのシーン。もちろん課題も話題に上ることもある。けれど、それがどんな内容であれ、記者とチームがどういう関係にあろうとも、誰もが明るい表情を浮かべている。
微妙な空気が流れるのはアビスパが敗れた時だ。あからさまに悔しそうにはできないし、かといって、黙り込むのもしゃく。結局、努めて冷静に試合を振り返りながら監督がやってくるのを待つわけだが、それがどうにも不自然で、何とも表現しにくい空気が流れる。おそらく、一番気を使うのがアウェイの記者。他人の庭で両手をあげて喜ぶわけにもいかず、結局、アビスパが勝った時以上に無表情になって壁の花になる。
監督も人それぞれ、様々な表情を見せてくれる。私が取材させてもらったアビスパ歴代監督の中で最も印象に残るのが、2000年から2年間にわたって指揮を執ったピッコリ監督。とにかく熱く、強気の人だった。私の記憶に強く残るのは2000年シーズンの記者会見。この年のホームゲームの成績は8勝7敗だったが、博多の森球技場(現・レベルファイブスタジアム)では、すべての記者会見で「今日の試合は我々が勝ちに値した」と高らかに宣言した。
熱い気持ちとは裏腹に、静かに記者会見に対応していたのが2003年から2006年途中まで福岡を率いた松田浩監督(現・栃木SC監督)だった。勝った時も喜びを顔に表わすことはほとんどない。そして決まり文句のように、「やることは変わりません。これを続けるだけです」と言い続けた。大勝負を制した時も、手痛い敗戦を喫した時も、それは3年7カ月の間、ただの一度もぶれることがなかった。
対戦相手にも記憶に残る監督はいる。新潟を指揮していた反町康治監督(現・湘南監督)、三浦元札幌監督、柱谷元京都監督らが、その代表。3人とも試合を冷静に分析し、分かりやすく話してくれる監督だったが、最後の一言がチクリと私の心を刺した。
そういう意味では、いま最も気になるのが岸野靖之監督(鳥栖)。九州ダービーのたびに私の心をチクチク刺す。それは計算の上だと分かっているのだが、ついカリカリする自分がいる。そんな私を見ながら「しめしめ、狙い通り」と心の中で呟いていることだろう。
そして今シーズン最初の九州ダービーの記者会見。熊本の出方を利用して狙い通りに先制点を奪ったのは福岡。しかし、後半に入ると不用意なプレーを続けたことで熊本の後手を踏んで、ほぼ一方的に攻め込まれた。
熊本は前半を0−0で折り返すという当初の狙いは狂ったものの、後半に自分たちのサッカーに持ち込み、完全に試合を支配した。しかし、結果は1−1の引き分け。どちらにとっても悔しさが残る試合で、両監督がどんな会見をするのかに注目していた。
いつものように実直な姿勢で応じたのは篠田善之監督。決して感情に流されることなく、大きくはっきりした声での受け答えは、昨年の7月13日に監督として初めて記者会見に応じた時と少しも変わらない。公の場では話せないこともあるだろうが、基本的に記者との駆け引きもしなければ、質問をごまかすこともしない。その嘘のない姿勢が監督としての意思の強さを感じさせる。そして、だからこそ、この日の悔しさが伝わってきた。
一方の熊本の北野誠監督。初めて記者会見を聞かせてもらったのは、今シーズンの開幕戦となった熊本vs.草津のゲーム。「強気の塊のような人だな」、それが私の第一印象だった。言葉のひとつ、ひとつに鋭さがあり、一直線に進む強さが感じられる。その印象は、私の心をチクリと刺した言葉も含めて(笑)、この日の会見で益々揺るぎないものになった。そして、チームが非常にアグレッシブな理由が分かったような気がした。
ちょっとした仕草や、何気ない言葉のひとつ、ひとつに、監督の思いが現れる記者会見。それを心に刻みながら改めて試合を振り返ると、終わったばかりの試合に新たなエッセンスが加わって深みが増す。さて、次の試合の記者会見では、どんな話が聞けるのだろうか。
以上
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2009.04.15 Reported by 中倉一志
J’s GOALニュース
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4/12は、今シーズン最初の九州ダービー。負けられない戦いにサポーターも、いつも以上の熱い声援を送る。
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試合前に行われたU-14福岡vs.U-14熊本の九州ダービー。弟分の対戦は福岡が2−0で勝利した。
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