朝8時。まだ誰もいない雁の巣球技場のクラブハウスの鍵をあけることが最初の仕事だ。眠い目をこすってというわけにはいかない。自分が行う準備のすべてに、その日のトレーニングが効果的に行えるか否かがかかっている。それはチームの成績にも大きくかかわること。スポットを浴びることはないが、その仕事の重要度は高い。
伊藤智。縁の下の力持ちとも言えるキットとしてチームを支えている。
サッカーのプレー経験はなかったが、プロスポーツの世界にかかわりたくて、大学生の時にアビスパ福岡後援会にボランティアスタッフとして参加。大学卒業と同時にアビスパ福岡でキットとして働くことになった。当時、キットは不在。1人で聞きなれない仕事に取り組んだ。「何も分からない状態。他のチームで同じ仕事をやっている人たちのやり方を盗みながら、自分なりのやり方を見つけてきた」。今年で7年目を迎える。
レガース、ビブス、還元水を用意し、ボールの空気圧を調整してから監督のもとへ。その日の練習メニューを確認して必要な用具をすべてリヤカーに積み込んで練習場へと運ぶ。それだけでは終わらない。途中で着替えるのか、長袖と半袖のどちらを好むのか、水の補給のタイミングはいつか、それぞれの選手の好みを把握し、練習中に選手が望むタイミングで、望むものを用意する。水ひとつにしても、試合前々日、前日、当日と違う飲料を用意し、さらに選手によっては特別飲料を用意することもある。「どれだけ気が配れるかが自分の仕事」と話す。
また、事前にトレーニングメニューを確認するのは、必要な用具を準備するためだけではない。通常、トレーニングはピッチをいくつかのグリッドに区切り、そこを移動しながら行われていくが、事前にトレーニングの進行を把握しておくことで、インターバルの時間の無駄をなくし、次のトレーニングメニューにスムーズに移れるようになるからだ。
「常にひとつ先取りして行動しています。どこにゴールを置いて、どこに用具を置いておけば、インターバルを取った後に無駄なく次のメニューに移れるかということですね。水を置く場所にしても、ひとつのメニューを終え、水を取って、次に移るまでがスムーズにいく場所に置いたり、次のトレーニングをするグリッドのところに予めボールを運んでおいたり、それは常に心がけています」
トレーニングの進行具合と、次のメニューを確認しながら、用具の乗ったリヤカーをこまめに移動させていく。
試合の準備をするのもキットの仕事。ホーム、アウェーにかかわらず、必要な用具は全て揃える。ミスはひとつも許されない仕事。確認の上に確認を重ねる気を遣う仕事でもある。辛いのは敗れた時だ。しかし、感情を表すことはしない。
「勝ったときは、練習の準備をしていたことが報われた気がします。負けた時は、やはり悔しいですね。でも、負けた後に気落ちしてダラダラ片づけていたのでは、選手にも影響を与えるんじゃないかと思う部分もあるので、感情的にならずにパパッと片付け、次、次というように切り替えてやっています。それに、片付けは次の試合への準備。もう試合は始っていますから」
さて、縁の下でチームを支える伊藤に、今年のチームはどのように見えるのだろうか。
「いい意味で、選手が声を出して、お互いに言い合って、要求し合って、そこで解決していくということが出来ていて、よく話すことが例年以上に多いなと感じます。経験のあるベテランがチームを引っ張ってくれているし、中堅選手も若い選手たちによく声をかけているし、若手からベテラン、監督・スタッフまで、いい距離感で、いいコミュニケーションがとれていると感じますね」
伊藤がキットを始めたのは松田浩元監督(現栃木SC監督)がアビスパの監督に就任した年。その時は3年かけてJ1昇格を果たした。そして今年、チームとともに再びJ1の舞台で戦うべくチャレンジを続ける。
「最後はちょっとしたところの差だと思うし、普段の練習だけでなく、普段の生活からも意識していけば、そうしたことを積み重ねることで昇格というものが見えてくると思います。チーム一丸となって昇格を目指したいです」
かつて伊藤は、アウェーゲームの際にトラックに荷物を積み込んで、全国のいたる所まで自分で運んでいた。当時、「自分はサポーターの思いを背負って走っている。その思いを代わりに運んでいる気持ちを忘れずに走っています」と話していたことを思いです。今はアウェーの地に自ら運ぶことはなくなったが、いろんな人たちの思いを背負って戦っている気持ちに変わりはない。目指すは「結心」のスローガンのもとでJ1昇格を果たすこと。彼も選手とともに戦っている。
以上
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2009.03.16 Reported by 中倉一志
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