9月23日（火） 2008 J2リーグ戦 第37節
湘南 1 - 2 仙台　（17:04／平塚／11,660人）
得点者：44' 梁勇基（仙台）、79' 加藤望（湘南）、89' 菅井直樹（仙台）
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　手もとの時計は92分を回っていた。湘南のファウルに、ボールをセットしたのは3枚目のカードとして投入されていた佐藤由紀彦だった。傍らのスタンドでは、仙台から集ったサポーターがこの日一番の声援を送っている。他方、ファーサイドで合図を送っていたのは菅井直樹だった。「今日は決めることができそうな予感があった」と打ち明ける彼は果たして、佐藤のフリーキックを体当たりするが如くねじ込んでみせた。勝負を決する、仙台の2点目である。

「我々のミスから失点してしまった。仙台は我々のミスをしっかりとモノにした」湘南の菅野将晃監督は、試合後にこう振り返っている。事実、仙台は序盤からホームチームのわずかな綻びを逃さなかった。20分にはパスカットから梁勇基、平瀬智行と展開して斉藤大介が頭で合わせ、26分には平瀬が相手ゴール前でパスカットし際どいシュートを放つなど、いずれもフィニッシュまで至っていた。

そして前半終了間際の44分、湘南の攻撃を防いだ直後のことだ。すかさず左サイドの関口訓充を経て、梁に繋ぐ。このとき、前線とサイドでそれぞれマークを引き付けたことで、仙台は敵の守備網を分断することに成功する。すると梁は振り向きざま、エアポケットのように空いた目の前のスペースに持ち込み、コースを切られるまえに右足を振り抜いた。試合前、湘南GK金永基と挨拶を交わした際に、「『決めるぞ』と言った」という宣告通りのゴールだった。

　ただスコアとは裏腹に、ゲームを主導していたのは湘南だった。高い位置からプレスを仕掛けボールを奪うと、石原直樹と原竜太の2トップに収めながら加藤望と鈴木伸貴が左サイドでつくり、坂本紘司がミドルを狙い、あるいは菊池大介や永田亮太が果敢にゴール前へと進出する。後ろでは田村雄三と山口貴弘のセンターバックに加え、臼井幸平が裏や間を窺う相手をケアし続けた。前節の徳島戦の反省もあったのだろう、全員でフォローしあうチームプレーによって湘南の流れは途切れない。

　梁の先制弾を受けて迎えた後半に入り、両者の攻め合いはさらに激化する。湘南が加藤を中心に攻めこみ相手ゴールを脅かせば、仙台も菅井と田村直也の両サイドバックのオーバーラップを絡めつつ、セットプレーやナジソンのシュートで応戦した。

仙台が押し気味に進めるなか、途中出場の阿部吉朗による弾丸ミドルを経て湘南が攻勢を強めていく。そして79分、ついに得点機は訪れる。試合前に鮮やかなコレオグラフィで選手を迎え入れていたホームの大歓声に包まれるなかで、加藤がペナルティエリア手前で手にしたフリーキックを冷静に沈めた。前半32分のフリーキックの場面では壁越しを狙い、惜しくもクロスバーを叩いていた。そうして迎えた2度目のチャンスで、「壁の外を狙った」というベテランのボールは、低い弾道で針の穴を通すようにゴールに結ばれた。

その後、両者ともに攻め、決死の守りで応戦し、ロスタイムのドラマに辿り着く。試合終了の笛の音が鳴り響き、両軍の選手がその場に倒れこんだ光景が、ともにどれほど死力を尽くしたか、この一戦にどれだけ強き想いを込めて臨んでいたかを物語っていた。

「結果を得られず、非常に残念です。しかし、多くのひとたちにベルマーレの闘いというものは観ていただけた。今季一番よいゲームができたと思っている」と菅野監督は語り、仙台の手倉森誠監督も、「勝点1差で昇格を争っているチーム同士というにふさわしい、それぞれのチームの特徴が出たゲームをお互いにやれたかなと思います」と口にした。そのすぐ後、昇格が内定した広島のペトロヴィッチ監督が「人とボールが動くサッカーをしたいと思っているが、今日はひとの心を動かすサッカーができた」と語ったそうだが、平塚の激闘も1万1千を超える心の数だけ響いたに違いない。そして昇格争いの只中にいる彼らには、まだ8度の機会が用意されている。次節、仙台は水戸を、湘南は甲府をそれぞれホームで迎え撃つ。挑戦はまだまだ終わらない。

以上

2008.09.24 Reported by 隈元大吾