8月30日(土) 2008 J2リーグ戦 第33節
甲府 5 - 1 熊本 (18:33/小瀬/8,556人)
得点者:4' マラニョン(甲府)、37' 大西容平(甲府)、44' サーレス(甲府)、51' サーレス(甲府)、71' 羽地登志晃(甲府)、89' 斉藤紀由(熊本)
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「おい、これ食ってくれ」
試合前に運営本部の前をのろのろと歩いていると甲府の海野社長に呼び止められた。社長の手にあったのは葡萄。房ごとくれるのかと思ったら、くれたのは1粒だけ。
「これ、ロザリオ・ロッソかロアッソっていう品種らしいんだ」と笑う。
社長だけでなく、誰もが験(げん)を担ぎたくなる今シーズンだったが、マラニョンとサーレスが加入して8試合目の熊本戦は、想像以上の進歩を魅せてくれた。安間監督が言うように「熊本が真っ向勝負に来てくれた」という要素も大きいが、パス回しのうまいチームにボールが収まるFWがいればすごいサッカーができるということを見せ付けた。
「プレスに行くか、ロングボールで甲府のディフェンスを下げさせるかが曖昧だった」とアンカーの喜名が振り返った熊本は、甲府のプレスに追いまくられてボールを拾ってからもミスが続いた。主導権を握った甲府は4分にアシスト大王・大西のクロスにサーレスとマラニョンが飛び込んで、マラニョンが来日初の足でのシュートを決める。1点を取られて熊本のエンジンがかかって何度かチャンスを作るが、甲府のGK・桜井を慌てさせるようなシュートは打てなかった。
この時間に同点に追いつけていればこんなことにはならなかったかもしれないが、甲府の攻撃の圧力が宮崎の一発退場のファウルを誘う。PKではなくペナルティエリアの直ぐ外からのFKになったのだが、このFKを大西が決めたのが素晴らしかった。もしこれが決まっていなければPKで取れた1点を損した気分になったかもしれないけれど、「ガツン」と決めてくれたことで小瀬はイケイケになることができた。流れを加速させる大きな1点だった。
1人減った上に、甲府のプレッシャーにボールが足につかない熊本は、その後も守備の練習を続け、44分にサーレスのゴールを許す。バレーボールのキューバ選手のアタックのように高いヘッドは急角度で熊本のGK・太の足元で跳ねてゴールに転がり込んだ。
後半も立ち上がりから決定機を作り続けた甲府は、51分に藤田の巧み系スルーパスを受けたサーレスが右足で4点目を決めて、何点でも取るという姿勢を見せる。お互いにメンバーを代えていくが、甲府の主導権は藤田、マラニョン、サーレスがベンチに下がっても変わらなかった。投入された美尾、羽地、木村にとっては自分たちが力の劣ったサブではないところを見せるチャンス。ゴールは羽地が奪ったPKの1点だけだったが、彼らの持ち味は発揮できていた。後半のロスタイムをロアッソタイムにしてしまい斉藤にゴールを決められたことは残念だが、この失点は次節・鳥栖戦(9/7@ベアスタ)への良薬。高橋の素晴らしい意地のラストパスが生んだゴールでもあったが、甲府のラインコントロールもズレていた。ただ、大量得点差になっても足がつるほど走った甲府の選手を責める気にはならない。5−0のお祭りで終わらず、劣勢な相手でもワンチャンスでゴールを決めることができるということを教えてもらった授業料と受け止めればいい。これは今後に取り返せる。
甲府のサッカーの前進はマラニョン、サーレスの能力に頼る部分は大きいが、頼り切っているわけではない。甲府スタイルを進化させるために足りなかったモノを持っている彼らの力と影響しあって、日本人選手も能力を発揮しながら成長している。全員の名前を挙げて讃えたいくらいアグレッシブ。マラニョン、サーレスも走ることの重要性、判定に左右されないメンタルなどを学んで成長している。彼らに後ろからロングボールを出して「あとはお願い」と言って、守備の準備をするサッカーとは違う。昇格ライン到達まで厳しい戦いが続くが、熊本戦の勝利は信じる気持ちをさらに強くしてくれた。強ければ応援するというファンも完全に取り込む内容と結果。山梨県民に自信と活力をもたらし、一つにするサッカーによるナショナリズム。ヴァンフォーレ甲府が創り出す「やまなしョナリズム」の前には、浦和もG大阪もマンチェスターUもバルサも2番手以下。この夜のような素晴らしいサッカーができるチーム・選手がJ1でプレーするところを見たい。「テレビの中の女優より自分の嫁が一番」かどうかは分からないけど、どんなスター選手がいるクラブよりも甲府が一番。第2次J1挑戦は絶対にできると信じる気持ちを共有できた夜だった。
以上
2008.08.31 Reported by 松尾潤
J’s GOALニュース
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