10月7日（日） 第87回天皇杯3回戦
草津 0 - 0（PK 5 - 4）アローズ北陸　（13:00／群馬陸／2,056人）

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　試合中、何度、敗戦を覚悟したことだろうか。前半39分、草津はボランチ松下が早々と退場になると、アローズの攻撃を受け止めるだけで精一杯。手元の集計による決定機は、草津の２本に対してアローズは７本。終盤は、アローズのクロスがゴール前を通過するたびに草津側スタンドから悲鳴が上がった。ＰＫ戦でも、絶体絶命の局面まで追い込まれた。数的不利の戦いを強いられた草津は、ボロボロの状態になりながらも、首の皮一枚で天皇杯４回戦進出を決めた。

　この試合のターニングポイントが松下の退場だったことは間違いないが、退場に至るまでは伏線があった。序盤の草津の攻撃を凌いだアローズは、草津の弱点であるボランチへのプレスを徹底していく。ボランチからの組み立てをベースにしている草津は、起点をケアされたことでリーグ戦同様に攻め手を失い、バックパスを繰り返す。そして23分、中盤の底でボールを奪われた松下がアローズのカウンターをラフプレーで止めて１枚目のイエローを受けてしまう。このシーンがこのゲームを象徴していた。

　そして39分、松下が上園のボールを奪いにいったプレーが反則とみなされ、２枚目のイエローで退場。この時点から草津が数的不利となり時間が進んでいくことになるが、それまでもアローズペースで試合が流れていたことは確かだった。事前のスカウティングでアローズが勝っていたと言えるだろう（弱点をいまだに改善できない草津にも問題があるのだが…）。

　草津は後半から鳥居塚を投入しゲームを落ち着かせるが、チーム全体のアイデア不足は明白だった。10人でゴールを奪うためには、通常以上のプレー精度が求められるはずだが、縦へのフィードは前線に収まらず、チグハグな攻撃の連続。75分、カレカのクロスに高田が飛び込んだシーン以外は、チャンスらしいチャンスがなかった。数的不利の状態での動きが各選手バラバラで、戦術統一もされていなかった。「退場の前も後も、システムが機能せず、本当に悪い戦いになってしまっていた」と高田。草津が勝利を収めるためにはＰＫ戦まで持ち込むしか方法がなかった。

　草津を崖っぷちまで追い詰めたアローズのチーム力は、前評判以上だった。永冨のポストプレーに２列目の上園、松下、木本らが絡んでいく攻撃は草津を苦しめた。「11番（永冨）にボールが収まっていて、ボランチがそのカバーと２列目への対応に追われた」と秋葉。終盤、送り込まれた西野、今井、小林は、草津の守備陣と対峙するや積極的に１対１を仕掛け、次々とチャンスを演出。いつゴールが生まれても、なんらおかしくない状況だった。だが、圧倒的に攻め込んだ延長戦でも、ゴールを奪うことができなかった。鳥居塚は「Ｊリーグの試合だったら、完全にやられていた」と振り返ったが、ゴール前での攻防がＪリーグとＪＦＬとの差になって現れた。

　120分間で決着をみなかったゲームはＰＫ戦へと突入する。そこでも先手を取ったのはアローズだった。２番手のカレカ、３番目の佐藤正が立て続けにＧＫ藤川に止められ、草津は覚悟を決めた。だが、アローズにかかったプレッシャーと、草津のＧＫ北のセービングがＰＫ戦の流れを変えていく。「ＰＫは自信があったので、負ける気がしなかった」という北がアローズ５人目長山のシュートをブロック。イーブンに持ち込むと、草津の７人目、寺田が確実に決めて、逆王手。アローズ小林のシュートが左に逸れた時点で、草津に奇跡的な勝利が転がり込んだ。木本は「アローズの最後の天皇杯としてベストは尽くしたと思う」と話して言葉を詰まらせた。アローズ最後の天皇杯は、こうして幕を閉じた。

　土壇場で勝ちを拾った草津だが、追い込まれた選手たちを奮い立たせたのは、カテゴリーの違うチームには絶対に負けられないというプライドだ。それはリーグ戦とは明らかに違うものだった。リーグ戦での低迷が続く草津は、このプライドを残りのゲームでも見せて欲しい。この試合がチーム浮上のきっかけになれば、苦戦も素直に受け入れられる。このＰＫ戦で見せた勝利への執念が、草津の力になることを信じたい。

以上

2007.10.07 Reported by 伊藤寿学