8月12日(土) 2006 J2リーグ戦 第33節
仙台 3 - 1 水戸 (19:04/ユアスタ/16,019人)
得点者:'16 ボルジェス(仙台)、'33 ボルジェス(仙台)、'57 大和田真史(水戸)、'70 関口訓充(仙台)
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いつもはまず先にGKのみが現れるはずのピッチ内アップに、フィールドプレーヤーを含めた仙台の選手全員が一緒に登場する。いつもと違う。
それを迎えるサポーターは、普段は得点のチャンスにあわせ声をそろえて叫ばれる「仙、台、レッツゴー!」のコールを、今日の第一声に選んだ。いつもと、違う。
このコールを皮切りに仙台サポーターの応援が始まったのは、普段より早い18時23分。そこから試合開始まで、曲間のインターバル以外は一切声援を途切れさせずに、仙台サポーターは応援を続けるという。まるで仙台のベンチに向けられているかのように、今日バックスタンド前面に掲げられたポルトガル語の横断幕は「私たちはあなたたちを、常に応援し続ける」。あきらかに、いつもと違う。
6試合ホーム勝ち無しという状況で、ユアスタに漂っていた悪い空気は、サポーターが一掃してくれた。仙台はこの声援を背に受け、いざ水戸を攻略にかかる。
「変化」の空気に影響されたわけではなかろうが、対戦相手である水戸が過去2戦で採用していたロペスへのマンマークを放棄したことも、仙台には大いに幸いした。のどから手が出るほど欲しかった先制点が、早い時間に仙台にもたらされる。16分、この日2試合連続スタメン出場の富田が中盤高い位置でボールを奪うと、右サイドでマークの甘い状態にあったロペスへ。少し縦に持ち込んだ後にロペスが放ったゴール前へのハイクロスに、ボルジェスがファーサイドで競り勝ってヘディングシュート。これが緩やかにゴール左隅へと吸い込まれた。
そこからの前半は、まさに仙台のための時間となった。相手が全体的に引いて守っているとはいえ、試合当初は「崩し」の意図が感じられない最終ライン付近でのボール回しに終始していたものの、徐々にパス&ゴーを絡めて、固まった相手を切り崩せるようになってきた。ボールポゼッションも水戸を圧倒。水戸が唯一の可能性をかけてくりだすカウンターアタックも、フィニッシュの場面で今日が仙台初出場の丸山がアンデルソンに仕事をさせず。
そしてこの、優勢の仙台、劣勢の水戸という試合の流れがそのまま形になった追加点が、33分に決まる。低い位置まで下がってきたロペスが、前線右サイドに上がっていた中田へ長い縦のボールを入れる。身長173センチの中田を目の前にして、188センチの大和田は自らの感覚を麻痺させてしまったのか、中田の眼前でクリアを試みたヘディングが全くボールに届かない。何事も無かったようにボールを受けた中田は右サイドから、ペナルティーアーク付近のボルジェスへ横パス、受けたボルジェスはゴールへの突進の際権東と交錯するものの笛は吹かれず、そのままシュート。一度はGK本間に止められるが、はね返りを再び受けたボルジェスが今度は本間のニアサイドをぶち抜いた。前半は2−0。仙台サポーターの大歓声を受け、選手たちはロッカールームに下がっていった。
ところが、後半に入り、ゲームの様相は一変する。前半までの張り詰めた空気はどこへやら、仙台は緩い守備で、ハーフタイムに前田監督から激を飛ばされた水戸の攻勢を呼び込んでしまい、ゴール近い位置でFKを与えるなどピンチが続く。そして57分、囲んでもボールを奪いきれない仙台の左サイドが傷口となり、そこを突いた水戸。ゴール前に右サイドから入ってきたボールを西野が一度絡んだ後に左に流すと、そこには2失点目の責任を払拭するべく猛然と突っ込んできた大和田が。左足を振りぬいたシュートがうなりをあげて、GK小針を破る。2−1、試合はわからなくなる。
さらにミスが続き、水戸のカウンターの刃を自ら砥いであげるかのようなプレーに終始する仙台。66分には左サイドからのセンタリングに対し、なぜかゴール真正面至近でぽっかりとマークが空いていた椎原にヘディングを許す。これは小針の立ち位置に飛んだことで事なきを得たが、これが決まっていたら試合は本当にわからなかっただろう。
ここでたまらず、ジョエル サンタナ監督が動く。後半に入り精細を欠いていた熊林を下げて、代わって前線の選手である関口を投入。同ポジション同士の交代ではない以上、何かの意図を含んだ「ゲームを動かす」采配で、実際に仙台はこれにより、富田と千葉のダブルボランチ、関口が右、ロペスが左というボックス型の中盤へと変わった。ゲームがこれでどちらに転ぶのか、スタジアムに緊張感が走った。
だがそれが解き放たれるのにさほど時間はかからず、その時に響いたのは仙台サポーターの絶叫に似た歓声だった。交代からわずか3分後の70分。水戸のスローインのボールを村上が出足よくカットして、すかさず左サイドのロペスへ。縦への力強い突破からロペスが放ったセンタリングは、ライナー性のマイナスのもので、ニアのボルジェスを逸れていく。しかしその先に、逆サイドから走りこんでくる選手がいた。関口だ。狙い済ましたヘディングシュートがゴール右に決まった瞬間、仙台側の人間の感情が爆発した。
このゴールで落ち着きを取り戻した仙台が、もうほころぶことは無かった。3−1、仙台にとってはホーム7試合ぶりの勝利である。
まず水戸から検証すると、「この試合だけ」を考えれば、ロペスへのマンマークをつけなかったこと、そしてつけないと決めた以上不可避であった、主導権を握るための積極的な戦いが出来なかったことがすべてであり、つまりはマンマーク戦術の放棄が敗因(勝てなかった理由ではなく、負けた理由)だったといえる。
しかし「今後の」水戸を考えると、一概にこの選択を批判は出来ない。選手たちから失うものが消えた後半の戦いは、極端な守備戦術に頼らない「新しい水戸」の形を垣間見せた。今季初の4連敗とチームは苦しい状況にあるが、一息つくために以前の姿に戻ることをよしとするか、あらたな姿を模索する道を選ぶか、その判断は水戸の方々に任せるとしよう。
一方の仙台だが、今日も3点全てにロペスが絡んだが、ロペスがボールを持つと、彼の突破を期待してか、攻めあがる選手のスピードが落ちる場面があるなど、基本的な問題は変わっていない。90分の中で極端に落ち込む時間を作ってしまう悪癖も残っている。
だが、最終ラインでのパス回しから基点を作り出した我慢強い攻めには好感が持てた。それに何より今日は、クラブがまさに一丸となり、悪い流れを断ち切った上での勝利、これこそ一番大きい収穫である。
「なかなか勝てなかった」ホームではようやく勝った。そんな仙台の次節は、これまで「一度も勝てていない(1分5敗)」札幌厚別競技場でのコンサドーレ札幌戦である。
以上
2006.08.13 Reported by 佐々木 聡
J’s GOALニュース
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