8月24日(水) 2005 J1リーグ戦 第20節
広島 2 - 1 大宮 (19:01/広島ビ/8,086人)
得点者:'13 ガウボン(広島)、'22 森田浩史(大宮)、'89 ジニーニョ(広島)
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広島・前田俊介が、必死で前を向こうとする。しかし、前回の対戦(5/14・第12節)で彼の技巧的なシュートのために、ロスタイムで勝ち点を失った大宮の選手たちは、この19歳の恐ろしさを十分にわかっていた。絶対に振り向かせないよう、身体を密着させる。しかし、「勝ちたい気持ちでは誰にも負けない」という前田は、それでも身体を強引にひねって、前に出ようとした。次の瞬間、前田は前のめりに倒れた。
ピッ。穴沢主審の笛が短く鳴り、広島にFKが与えられる。時計はすでに、92分を過ぎていた。ロスタイムの目安は「3分」だ。
この時、ジニーニョが動いた。通常のセットプレーでは、カバーリングの位置にステイしているジニーニョ。しかしこの時彼は、ベンチに向かって「前に行きたい」と叫んだ。広島が優勝争いにしがみつくためには、絶対に勝ち点3が必要な試合。たとえ、カウンターで勝ち点1を失う可能性があっても、小野監督にジニーニョの申し出を退ける意思はなかった。
「行けっ!」。
左サイド、ゴールまで約25m。セットされたボールの近くには、李漢宰が立つ。彼は、自分のキックに手応えを感じていた。ほんの5分前、FKを蹴った時に、彼は「入ったと思ったくらい、いいボールが蹴れた」という。それだけに「次こそは」という想いが、彼の中に満ちていた。狙い所は、ゴールキーパーとDFの間。そこに落としていけば、誰かが触れば何かがおきる。
一方の大宮は、絶対に跳ね返したい。必死で戦ってきたここまでの92分間を、無駄にはできない。マークの確認を何度も行う。が、最後になってスルスルとあがってきた背番号4については、見落としていた。「ジニーニョはゴール前にはこない」という情報が、選手たちを支配していたのだ。
壁の位置が修正され、穴沢主審が笛を口に持っていく。時計は93分台に入った。次がラストプレーだ、と誰もが感じていた。歓声と怒号が交差していたビッグアーチは、この瞬間、静けさを取り戻す。息をのむ声が、聞こえた。
笛が鳴る。李が右足を振りきる。
「頼む、誰か、当ててくれ!」
李の祈りがこもったボールは、ググッと曲がり落ちて、狙い通りの場所に落ちてきた。紫が飛ぶ。白が寄せる。ゴール前は二つの色と二つの想いが交錯し、スパークした。が、その混戦の裏から、大宮にとって予想外の男が飛び込んできた。
試合後、映像で確認すると、李のボールはこの時、ジニーニョの背中に当たっていた。メインスタンドの記者席からは、そこまでは見えない。ただ、李のボールが落ちていった瞬間、「入った」と叫んだ記者が、何人もいた。
ボールは、ネットの中で、弾んだ。
爆発する歓声の中、李はものすごい勢いでベンチに向かって走った。ヒーローとなった背番号4も、両手を力強く握りしめてダッシュした。森崎和幸が、服部公太が、佐藤寿人が。みんなジニーニョと共に、走った。
広島のベンチ前で、小野監督を中心に歓喜の輪が出現する。しかしゴールからその歓喜までの一連の流れを、広島の知将は「覚えていない」と言う。2試合連続ロスタイム弾という劇的すぎる展開が、いつも冷静な指揮官をも「真っ白」にしてしまったのだ。
そのシーンを、大宮の選手たちは呆然と見つめていた。彼らにしてみれば、狙い通りの展開だったはずだ。4-1-4-1システムで中盤からバイタルエリアまで守備の網を張り、相手のミスを誘ってボールを奪う。そこから森田のポストプレーと2列目の飛び出しを連動させて、一気にゴール前に迫る。トゥットは上がってくる服部の裏のスペースを引き裂き、藤本主税もゴール前に何度も迫った。詰めのところでジニーニョと小村に跳ね返され、最後は疲労から足が止まったとはいえ、選手たちは全員が身体を張って集中し広島に立ち向かった。あと1プレーしのげば、勝ち点1を手中にできた。しかし…。
「ホームでもロスタイムでやられている。(2試合で)勝ち点2を失った」。呆然とした表情で、三浦監督は言葉をつないだ。J1屈指の分析家である三浦監督ですら、さすがにこの展開は予測できなかったはずだ。
2試合連続、今季4度目のロスタイム弾勝利で優勝戦線に堂々と名乗りをあげた紫の戦士たちを待っていたものは、ビッグアーチを揺るがすサンフレッチェコール。何度も何度も、永遠に続けるかのごとく、サポーターは叫ぶことをやめなかった。
以上
2005.08.25 Reported by 中野和也
J’s GOALニュース
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