確かに、首位・鹿島とは勝ち点9の差はつけられている。しかし、12試合で勝ち点20をあげ、第2位につけているというのは、間違いのない事実である。この段階で「2位」というのは、なんと1994年、あの優勝したファーストステージ以来。そういう歴史的な事項だけでなく、昨年は1年間でわずか6勝しかあげられなかった広島が、今季はもう5勝している。この事実だけでも、今季の広島の躍進が理解できるというものだ。
その原動力は、もちろんリーグ最少失点(8失点)を誇る鉄壁の守備陣にあることは、論を待つまい。ただ、守備の固さについては、昨年も評価されていた。だが、問題は攻撃力とのバランス。たとえ相手を0点に押さえても、得点できない。一方、攻撃的にいってゴールを重ねると、今度は失点も多くなる。結果として、リーグナンバー1の13引き分けを記録していた。確かに負けなかったが、勝ちもしなかったチームだった。
今季は、そのバランスが大きく改善されている。ジニーニョというスーパークラスのDFを補強し、高圧酸素治療を取り入れたことでコンディションが大きく改善できた小村とのコンビで、中央の守りが鉄壁になった。このことによって、広島最大の武器である両サイドの攻撃参加の頻度が非常に多くなったのである。特に、右サイドの駒野が絶好調で、現在アシスト6と得点に数多く絡んでいる。もちろん、佐藤寿人やガウボン、茂木弘人や前田俊介らFWの活躍も目についているが、失点を減らして得点が増えた最大のポイントは、中央の守備が安定したことで攻撃に多くの枚数がかけられるようになったことにある。
◆再開後の展望・見どころ
広島にとって、最大の敵は「移動」である。関東のチームと違い、アウエイはどんな場合も「長距離移動」「ホテル泊」がついてまわる。これは、おそらく実際にやってみないとその厳しさはわからない。小野監督も、広島に来て初めて、移動のつらさがわかった、と語っているほどだ。
7月2日の開幕からの広島のスケジュールを書いてみると、こうなる。
前日移動→アウエイ柏戦(7/2)→翌日移動→中2日→ホームG大阪戦(7/6)→中2日→前日移動→アウエイ大分戦(7/10)→翌日移動→中1日→ホーム磐田戦(7/13)→中3日→前日移動→アウエイ浦和戦(7/18)→翌日移動→中3日→ホーム東京V戦(7/23)。
つまり、ほとんどが試合と移動に費やされてしまい、その間に疲労は蓄積されていく。特にホテル暮らしが長くなるため、肉体的だけでなく精神的な疲労が多くたまっていく。これが関東同士のチームの試合になると、アウエイといっても当日に自宅に戻ることができ、広島が移動に費やす時間を休息や修正にあてることができるわけだ。このハンディは、体験してみないと言葉を積み重ねてもわかるものではない。
とはいえ、そこを乗り切らないと、優勝など夢のまた夢。この酷暑が伴う連戦を乗り切るには、まずスタートの柏戦やG大阪戦で勝利し、勢いに乗ることが大切だろう。ゴールデンウィーク前からの連戦は、最初に連勝したことで精神的に楽になり、疲労感が軽減した。その再現を狙いたい。
そして、もう一つはやはり新戦力の台頭だろう。ガウボンが足の骨折のためにこの連戦に参加できるかどうか微妙なこともあるし、何よりもこれだけの連戦を11人だけではとても乗り切れない。そのため、復活基調にある森崎浩司やナビスコカップで結果を出した桑田慎一朗、巻き返しを狙う池田昇平、さらに負傷の癒えた北朝鮮代表MF李漢宰など、前半戦にはいなかった戦力の活躍に期待したい。
◆HOT6の注目選手
攻撃の中心として結果を出していたガウボンの穴をどうするか。それが、この7月における最大のテーマとなる。もちろん、彼と同じ高さや強さを期待しようとすると気が重くなるが、小野監督がナビスコカップで「ベットFW起用」という策に出たように、ガウボンの代役を求めるのではなく、新しい形で前線をつくる可能性もある。
そこで期待したいのが、前半戦では「スーパーサブ」として活躍した茂木弘人と前田俊介だ。
茂木は、前半戦躍進の立役者の一人といっていい。開幕の清水戦での同点ゴール、第7節(4/23)川崎F戦での決勝ゴールなど、ここぞという場面で彼はしっかりと結果を残してきた。昨年までは、試合ごとの波が激しかった茂木。今年はやるべきことが整理され、さらに精神的にも安定していることで、開幕からずっと安定したパフォーマンスを演じてきている。鋭い突破とゴール前での爆発力は、ほかの誰もまねのできないものだ。
剛の代表が茂木ならば、前田は柔である。柔らかいボールタッチを武器にした天性のドリブルは、チャンスメークではなく常にゴールに向かっている。そのため、相手は常に「ゴール」への怯えを抱きながら彼と対峙せざるをえず、それが前田俊介に対する「恐怖感」につながっているのだ。そして、彼もやはり、試合に出れば結果を出している。初先発した5節(4/13)東京V戦でのゴールはその後のチームに勢いをつけ、12節(5/14)大宮戦ではロスタイムで決勝ゴールを叩き込む。ワールドユース選手権での活躍でさらに自信をつけた前田の存在は、相手にとってさらなる恐怖を呼ぶことは間違いない。
この2人の若きストライカーが、ガウボン不在の穴をどう埋めてくれるか。それは、単に7月戦線だけではなく、今後の広島の戦いを占う意味でも、また将来の広島の飛躍のためにも、非常に重要な要素となるだろう。
◆再開後のフォーメーション予想
以上
Reported by 中野和也