5月21日(土) 2005 ヤマザキナビスコカップ 第3節
広島 1 - 4 川崎F (15:00/広島ス/4,496人)
得点者:'14 中村憲剛(川崎F)、'53 ガウボン(広島)、'54 ジュニーニョ(川崎F)、'70 黒津勝(川崎F)、'77 谷口博之(川崎F)
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ガチガチに固まっていた。アップ中の森脇良太の表情を双眼鏡で覗くと、顔がこおばったままになっていた。昨年、広島ユース時代に公式戦デビューを飾っていたとはいえ、「プロになった後とユースの時とでは、やはり気持ちが違います」と、森脇は語っていた。彼はこの日、「日本を代表する右サイドバック」と川崎F・関塚監督に称された駒野友一のかわりに、今季初めて先発で起用されたのだ。
カチンコチンになっていた森脇を救うには、開始早々から広島が攻勢をかけ、彼をチーム全体の勢いに乗せてやる必要があった。しかし、今日の広島はスタートからおかしかった。「ボールの近くにいる選手がまずディフェンスにいかないといけないのに、その動きがなかった」と試合後、服部公太が悔しそうに言葉にしたが、まさにそのとおり。広島の好調時に見せるアグレッシブな高い位置からのディフェンスがまるで機能せず、川崎Fのパスが、気持ちよく通る。あわててディフェンスにいくと、簡単にはたかれてサイドを変えられる。その必然として、ディフェンスラインをあげることができず、森崎浩司とベットの両MFがアンカーボランチの森崎和幸と「三角形」ではなく一直線になってしまった。
最終ラインでボールを奪ったとしても、川崎Fが高くラインをあげてコンパクトなゾーンをつくっているから、ボールをつなぐスペースはない。やむなくロングボールを蹴ってもボールキープできず、セカンドボールはほとんどすべて川崎Fのもの。広島は、ほとんどチャンスらしいチャンスをつくることができず、前半を終了。14分に喫した中村憲剛の素晴らしいFKでの1失点でこの時間帯を終えたことは、広島にとって僥倖以外の何ものでもなかった。
しかも、この45分間をほとんど守備にまわったことが、森脇にとって想像以上の疲労感を与えていた。川崎Fは当然、経験のない森脇をターゲットにして、アウグストにボールをまわしてくる。そのアウグストが、あの手この手で森脇に揺さぶりをかけていた。単純に縦にいくだけではない。今野をうまく使いながら横に振ったり、ドリブルにいくとみせかけてパスを出したり。アウグストのクロスが直接森脇の顔面にあたったこともあったが、それも「ゆさぶり」の一種かと勘ぐりたくなるほど、アウグストは森脇を精神的に翻弄した。そのためか、森脇が本来もっている大胆さや思い切りは消え失せる。前にスペースがあってもボールを持ち出せず、可能性のないロングパスばかりを蹴るようになってしまった。アウグストのゆさぶりが、固くなっていた森脇の身体と心を痛めつけていたのである。
後半、交代出場した「森脇の同期」前田俊介が、持ち前のドリブルを生かしてチャンスを広げ、ガウボンの同点ゴールを引き出す。大歓声にわく広島スタジアム。しかし、その歓喜のスキを、アウグストは冷静に見ていた。
左サイドにボールを持ち出し、アプローチにきた森脇の裏にあっさりとスルーパスを通す。ここに谷口が走り込み、ジニーニョを引き出してクロス。ニアに黒津が飛びこみ、小村を引きつける。まさに「理詰め」の展開で広島の堅守をひきはがし、最後はジュニーニョがフリーでたたきこんだ。
さらに、アウグストは森脇を地獄へと導く。1対1にさらされ、あっさりと抜かれる。本来ならば追いすがらなければいけないのに、心身の疲労は、もう森脇の足を動かさなかった。フリーになったアウグストは、ゴールエリアまで侵入し、シュート。それが黒津にあたってゴールに飛び込んだ。この1点で、試合は事実上決まった。
この試合、川崎Fの選手たちは、相応の決意を持って臨んでいた。リーグ戦で3連敗中。満足にゴールを奪えない泥沼状態。関塚監督も「正直、自分も落ち込んでいた。でも、落ち込んでばかりもいられなかった」と、試合後に苦しかった胸のうちを吐露している。
そして関塚監督は、そのチーム立てなおしをかけて、ここまでケガで戦線を離脱していた今野章にその想いを託した。その起用がズバリと的中。今野の情熱に満ちた、サッカーができる喜びにあふれたプレイが攻守のアクセントになり、それが川崎Fの快勝につながった。
しかし、その今野の活躍を生んだのは、川崎Fの選手個々のこの試合に賭ける熱い想いだ。1対1での粘り強い応対。ここぞという場面で、一気に前に飛び込んでくる勇気。熱い気持ちは執念に変わり、球際の競り合いでことごとく広島を制した。その一人一人のがんばりに、久しぶりのゲームに不安を感じていた今野が乗せられ、素晴らしいプレイに昇華していったのである。
一方、広島はどうだったか。明らかにプレッシャーがかかっている森脇の緊張感に、チーム全体が引っ張られてしまった感があった。だが、それをこのルーキーだけの責任に帰することはできない。彼がアウグストに苦しむことは試合前からわかっていたはずで、そこをチーム全体でカバーとしようという気迫に欠けていたこと。そこに、この試合の敗因がある。
熱心なサポーターによれば、森脇は試合後、涙を見せたという。今日は思う存分、泣けばいい。そして、涙が出尽くした、その後に「自分に何が足りないのかをいつも考え、分析し、そして練習すること。それが成長につながるから」。
かつて、何度も何度も屈辱感にまみれ、罵声を浴びながらその都度立ち上がってワールドカップ出場を勝ち取り、35歳の今も素晴らしいプレイを披露している鉄人・小村徳男の言葉を、18歳の将来有望な右サイドバック・森脇良太は噛み締めて、今夜、眠りについてほしい
2005.05.21 Reported by 中野和也
J’s GOALニュース
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