広島 2 - 1 鳥栖 (15:05:広島ビ) 入場者数 22,052人
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「次、もう1試合、戦わないといけない。でも、今日だけは、みんなに言いたい」。水とシャンパンでずぶぬれになった小野剛監督は、こう言ったあと、声の限りに叫んだ。
「ありがとう!!!!!」。
その直前まで、シャンパンと水を選手たちがかけあっていたビッグアーチ下のトレーニングルームに、また大歓声が湧いた。
サンフレッチェ広島、J1復帰。選手たちは、追い求めていたものが手に入った感激に酔い、そして笑い、泣いた。
松下裕樹の涙は止まらなかった。何度も何度も、目を拭いていた。マスコットであるサンチェが泣きじゃくる彼を抱きしめた。上村健一、中山元気、木村龍朗……。みんな、泣いていた。
駒野友一は、笑っていた。服部公太や森崎浩司の笑顔は、忘れられない。森崎和幸は須田剛史と抱きあい、そして選手たちからシャンパンを頭からかけられていた。サンパイオはみんなに「ありがとう」と言い合っていた。そこやかしこで、選手も監督もスタッフもそして報道陣も、全ての人が抱きあい、握手をし、笑いあった。
試合は苦しかった。前半、中山の絶妙のヘッドを受けたマルセロのゴールが決まると、2万2052人のサポーターが揺れた。しかし、それから必要以上にゾーンを下げてしまったために、広島は鳴尾にセットプレイから失点を許す。森崎浩司を右サイドにもってきた布陣も機能せず、プレッシャーから身体が鉛のように重くになっていた。
しかし、今日のこの試合には、強い星を持った男が、帰ってきていた。
44分、マルセロがもらったFK。浩司の左足が一閃する。壁に当たったボールは、全ての広島に関わる人々の思いをのせ、そのままネットにつき刺さった。今季10得点目。彼が決めた時、広島は全勝。引分すらない。頼りになるエースは、今日もここぞという時に決めてくれた。
後半、広島はもう一度勢いをつけて襲いかかった。カズが、中山が、マルセロが、服部が何度もチャンスをつくる。しかし、鳥栖がロングボールを多用し、背の高い選手を前に張らせることで、ゴール前を何度も襲われた。しかし、リカルドが、上村が、頼りになるJ2ナンバー1の守備陣が、鳥栖の後半のシュート数をゼロ、トータルでもわずか2本に抑えきった。
途中、小野監督は一度も川崎の経過を聞こうとしなかった。選手たちも誰も、川崎の結果を知らなかった。ホイッスルが鳴った時、「次は等々力だ」と森崎和幸は思ったという。
が、歓喜は突然訪れた。まず、ベンチに「川崎引分」の報が伝わった。真っ先にピッチに飛び込んで伝えたのは、久保允誉社長だった。
その瞬間、ベンチが飛び跳ねた。何が起こったのか、と選手たちは一瞬戸惑う。と、ビッグアーチにアナウンスが鳴り響いた。
「J1復帰が決定いたしました!!!!」。
2002年11月30日、札幌ドームから始まったJ2ロード。思えばあの時、「僕は広島に残ります。もう一度、この場所=J1に帰ってきます」と答えてくれた選手たちが、今、ピッチで飛び跳ねている。喜びと感激で、感情を爆発させている。
途中、何度もチームは崩れ落ちそうになった。自分たちがやるべきサッカーを見失いそうになった。
しかし、そういう時に彼らを支えたのは、やはり昨年の札幌での屈辱であり、J1への強い思いであり、そして何といっても「苦しい時に、『我々のチーム』という言葉でサポートしてくれた」と小野監督が言う広島のサポーターの強い後押しがあったからこそ。収容人数の小さい広島スタジアムが主戦場となったため、平均観客動員数こそ昨年よりも減っているが、しかし、その情熱はこれまでの比ではなかった。シーズン後半の広島ビッグアーチでの試合は、軒並み1万人を超えた。新潟戦では2万6000人、今日は2万2000人、いずれも雨降る中に集まってくれた。J1の時よりもむしろ、サポーターの密度、思い、そして数は、間違いなく増殖している。だからこそ、崩れ落ちそうになった時に、選手たちは立ち上がることができたのだ。
サンフレッチェ広島の皆さん、おめでとう。
サンフレッチェ広島サポーターの皆さん、おめでとう。
サンフレッチェ広島は、来年、日本最高のステージに戻ることになる。そこでは、今年以上の苦しい戦いが待っているだろう。が、今季の苦しい戦いは、J1での栄光へのプロローグに過ぎない。また、来週から、そこに向けての戦いが始まる。そのためにも次節、「J2優勝」という栄光を勝ち取らねばならない。
が、まずは、歓喜に酔おう。喜びをみんなで分かち合おう。
その資格を今日、サンフレッチェ広島は、勝ちえたのだ。
2003.11.15 Reported by 中野和也
以上
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