インタビュー
――昨年に引き続き、明治安田生命2016Jリーグチャンピオンシップのアンバサダーを務めることになりました。
「大会自体は2回目ですけど、去年は初めての試みのなか、非常に面白いゲームを観ることができました。今シーズンは若干システムを変えて、スケジュール的な余裕が生まれているので、より一層面白いゲームが観られるんじゃないかと期待しています」
――今とは大会方式が異なりますが、松木さん自身、ヴェルディ川崎(現東京ヴェルディ)の監督として1993年、94年と二度チャンピオンシップを制しています。
「我々の時は運良く勝てましたけども、チャンピオンシップに参加できるというのは、監督も選手もクラブにとっても光栄なこと。ここに残ったチームは、他のチームよりも長く試合ができるという意味で、本当に幸せだと思います。ぜひ良いゲームを見せてもらって、今年のJ1リーグをいい形で締めくくっていただきたいなと思いますね」
――当時のエピソードを教えてください。
「これはね、毎回同じことを言ってますけど(笑)。当時は年をまたいで1月にチャンピオンシップがあったんですね。ただその前に来季の選手の契約を決めなくてはいけなかった。必要な選手と、そうではない選手というのをね。でも、まだ試合があるのにそれは決められないということを、協会サイドと話したという経験があります。最終的には特別措置ということで、チャンピオンシップが終わるまでは待ってもらえることになったんですが、まだJリーグができたばかりでしたから、ルールの部分でもいろいろ試行錯誤していた時代ではありました」
――当時、優勝できた要因はどこにあったと思いますか?
「安定したメンタルは絶対必要ですね。当時のヴェルディは、とにかく選手たちが自信を持っていた。しっかり落ち着いて戦えば、どこかでチャンスが来るという自信ですね。もちろん、今年の大会に出てくるチームもそれぞれが自信をもっているはずですから、自分たちのスタイルを揺らぐことなく貫いた素晴らしい戦いを見せてくれるでしょう」
――ドラマチックな展開が生まれるのも、チャンピオンシップの醍醐味です。
「去年は準決勝も、決勝の2試合もすべてが白熱した展開になりましたよね。そこで感じたのは、やっぱりメンタルの安定度ですね。(決勝第1戦の)アディショナルタイムにガンバが2失点を喫してしまったのは意外ではありましたけど、1年間通して安定度の高かった広島が意地を見せた試合でもありました。それこそ広島の自信が、土壇場での逆転劇を引き寄せたのでしょう」
――今大会に出場する3チームの印象を聞かせてください。
「浦和は安定感ですよね。チーム全体の競争力がアップして、勝負所で不安定になってしまう浦和はもういなくなりました。監督の起用の仕方もだいぶ変わりましたよね。不安定な選手はすぐに変えていきますし、競争を活発にしながらチーム力を高めていった印象です。これまでは悪い流れになると、ずるずると行ってしまいましたけど、本当に逞しくなりましたよね。昨年の広島同様、安定度が一番あるチームでしょう」
――川崎Fに関しては?
「やっぱり攻撃力ですね。この3チームの中でも、攻撃力は一番でしょう。ただリーグ戦の最後のところで不安定な試合がみられたので、そこが少し心配なところ。一方で風間(八宏)監督が今季限りで勇退しますし、大久保(嘉人)選手にも移籍の話が出ています。そこで、精神的な影響がどう出るか。意気込みすぎると、チームのバランスが崩れる可能性もありますから。“想い”というものが、いい形で出るといいですよね」
――鹿島はどうでしょう?
「確かに現状のチーム状態はいいとは言えませんが、たとえ悪くても、タイトルという名前が付くと、異常な力を発揮するのが鹿島というチームですから。頼もしいベテランもいますし、永木(亮太)選手も代表でいいプレーをしていました。ベテラン、中堅、若手が上手く融合したバランスの良いチームですよね。今シーズンはいろいろなゴタゴタもありましたけど、そういうことも払しょくするためにも、良い形でシーズンを締めくくりたいと考えているはずです」
――それぞれのチームのキーマンを挙げるとすれば?
「浦和では興梠(慎三)選手ですね。浦和のスタイルが上手く合っていますし、前線で起点になることで、他の選手の良さを引き出してもいる。もちろん、試合を決着つける役割でもありますから、彼のパフォーマンスがカギを握るでしょう。川崎Fでは大久保選手。やっぱり、チャンピオンシップは去年を振り返っても、守って終わりましょうという戦いにはならないので、どこのチームも攻撃の選手の果たす役割が大きくなるはずです。となると鹿島は金崎(夢生)選手ですね。良くも悪くも今年の日本のサッカー界を沸かせた選手たちですから、期待したいですね。まあ、この3人が代表にいないというのが気にはなりますけどね(笑)」
――川崎Fと鹿島の準決勝はどのような戦いになると思いますか?
「川崎Fはホームですからね。ホームの雰囲気が選手たちを助けると思いますし、そこにひとつアドバンテージがあるのかなと。それに対してしたたかな鹿島がどう対抗していくのか。ポイントになりそうなのは、2位の川崎Fは引き分けでも勝ち上がれるというレギュレーションですね。そのルールがメンタルに影響を及ぼすんじゃないでしょうか。もちろん、引き分けで終わるサッカーは難しいですよ。勝たないといけないチームのほうが勢いはありますから。川崎Fとすれば受け身に回れば苦しくなるから、こちらも勝ちに行くでしょう。となれば、ともにアグレッシブに攻め合う内容の濃い90分が期待できるんじゃないでしょうか」
――決勝の戦いを予想するのは難しいですか?
「そこは準決勝が終わってからにしてもらいたいですね(笑)。ただ、どっちが勝ち上がってきても、浦和は今シーズン結果を出した戦いを、変わらず示していくでしょう。そこに対して川崎F、もしくは鹿島が思い切ってチャレンジしていく。そういう構図になるのは間違いないでしょうね」
――最後にアンバサダーの立場として、このチャンピオンシップの見どころを教えてください。
「昨年からこのシステムになって賛否両論ありましたけど、ふたを開けてみれば大変内容の濃い試合になりました。文字通り年間を通して安定したチームがチャンピオンになったのが昨年の大会。今年もそれぞれスタイルの異なる3チームが参加しますが、いずれも力のあるチームですからどこが勝ってもおかしくはないでしょう。昨年の大会を踏まえてシステムが若干変わり、選手たちがよりプレーしやすい大会になりましたから、昨年以上に白熱したゲームが展開されると思います。ぜひスタジアム、もしくはテレビでこのチャンピオンシップをご覧いただければと思います。そしてこの中から、来年のワールドカップ予選で活躍する日本代表選手が間違いなく出てくると思いますので、そういう部分も踏まえながら、楽しんでいただきたいと思います」