0-0で迎えた終盤、ますます緊張感が高まる中で1点取られれば地獄、守り切れば天国という状況。3分と表示されたアディショナルタイムに入ってからの胸が締め付けられるような緊迫感。もう見ていられないとピッチから目を背けてしまうサポーターや清水関係者も多かった。そして笛が鳴った瞬間、スタジアム全体に充満した何とも言えないホッとした空気。歓喜とも至福とも違うこの気持ちは、経験した者でなければわからない感情だろうし、二度と味わいたくないものだ。
ただ、サポーターやクラブのスタッフ・社員だけでなく、メディアやボランティアも含めて誰彼となく握手し抱き合っている姿を見ると、やはり本当に多くの人の祈りが込められた試合だったということを実感する。「エスパルスを絶対にJ2に落としてはいけない」という思いでチームに関わる全員の気持ちがひとつになったことは、この苦しい残留争いの中で最大の収穫だったのかもしれない。
という話も、残留が決まったからこそできること。試合後に大榎克己監督は、「今日のゲームに関しては理想も何もなく、美しいとか良いサッカーとかじゃなくて、泥臭くてもどんなことをしてもという形になってしまいました」と語ったが、まさにその通りの試合内容になった。
先発の平均年齢が(35歳のノヴァコヴィッチも含めて)25.55歳という若い清水の選手たちにとって、かつて経験したことのない重いプレッシャーの中、守備での運動量は不足していなかったが、攻撃ではパスが弱くなったり、パスを受けに積極的に顔を出す選手が少なかったりと選手たちの硬さが見られた立ち上がり。ただ、それはある程度しかたない部分だし、大榎監督もそれは承知で現実的な戦い方を指示していた。
今回は竹内涼と2ボランチを組んだ本田拓也が、「竹内と平岡(康裕)とヤコ(ヤコヴィッチ)と真ん中4枚で話したことは、失点しないことだけを考えてやろうということ。相手のカウンターも速かったので、とくに僕と竹内のところでパスミスをしたくなかった。だから、相手の3バックの脇を狙って長いボールを蹴って、その後のセカンドボールを拾っていこうというのがチームとしての話でもありました」と語ったように、やはり必要以上のリスクは避けるというのが清水のスタンス。それでも序盤は、清水がセカンドボールをよく拾ってボールを保持する時間を作ったが、重心を後ろめに置いた2ボランチと、前から奪いにいきたいトップ下の石毛秀樹との間にスペースが生まれ、そこを甲府の2ボランチに使われて主導権を握られる時間が徐々に増えていった。
だが、それでも最後のところでは集中した守りで決定機を作らせず、前半の公式記録では甲府のシュートが4本、清水のシュートは0本。26分には甲府の阿部拓馬がきれいな突破から決定的なシュートを放ったが、ここはGK櫛引政敏が好セーブ。最近の試合ではミスが目立った櫛引だが、この大一番では高い集中力を発揮した。
一方、甲府のほうは、「我々はエスパルスに勝ったことがないので、とにかく勝点3を取りに行こうと。ただ、それはバランスを崩してやみくもに攻めに行くのではなく、いつものように我々らしく、相手の良さを出させない、オープンなゲームにしない中で、自分たちでゲームを組み立てていくというところ」という狙いは、城福浩監督最後の試合でも何ひとつ変わらない。その意味では、前半に清水のシュートを0本に抑えたのは狙い通りだが、攻撃のほうは物足りなさがあった。
後半の立ち上がりでクリアミスから大前元紀に決定的なシュートを打たれた場面では、いつも通り佐々木翔がゴールカバーに入ってギリギリでクリア。そのうえで攻撃では「相手を広げるようなポゼッションをして、そこから侵入していこう」という城福監督の指示の下、清水の選手に食いつかせながらサイドを変えていくパス回しで少しずつ突破口を探っていった。そして、68分と75分には良い形でシュートを打つ場面を作ったが、コースは狙いきれず櫛引にセーブされる。
77分にはセットプレーのこぼれ球からマルキーニョス パラナがボレーシュートを放つが、これは右サイドネット。このシーンでは「(気絶して)倒れそうになった」と振り返る清水関係者もいたが、このあたりから試合の緊迫度はさらに増していく。とくに残り数分は甲府が一方的に攻めて、清水がゴール前で何とか身体を張って耐える展開。3人目の交代枠でも、大榎監督は“救世主”村田和哉ではなく、守備固めのために三浦弦太を投入(90分+2)するなど、最後は守備陣の踏ん張りに託す形になった。
それほど守りを固められると、甲府としてもそこをこじ開ける力が足りないのは課題のひとつ。最後は清水守備陣が集中してセットプレーのチャンスも与えず、シーズン最後に7試合ぶりの無失点ゲームを実現して、ようやくJ1残留を自力でつかみとった。
今なら時効で紹介できるが、じつは大榎監督は試合前に「絶対に勝たなければいけない状況で甲府と戦うのは何としても避けたかった。引き分けでOKという状況で迎えられるのは本当に幸運だと思っています」と本音を漏らしていた。実際、勝たなければ残留できない状況だったとしたら、本当に苦しい試合になったことだろう。
もっと早い段階から、少なくとも6月の中断期からチームを立て直すことができていれば、大榎監督もこれほど苦労することはなかっただろうが、それでも清水は何とか勝点1差で生き残った。この運命を大切に生かしていくためにも、来季は「クラブとしてどういう方向でチームを進めていくのか、どういうサッカーを目指すのかというところを明確にしていかなければいけない」(大榎監督)という部分が重要になる。
以上
2014.12.07 Reported by 前島芳雄