大宮が2点をリードしてアディショナルタイムに突入し、ホームゴール裏から「無敵大宮」の大合唱が始まった。その後スコアは動かず試合は終了するのだが、ゴール裏は拍手も勝利のチャントにも切り替えず、そのまま「無敵大宮」を歌い続けていた。同時刻にキックオフの清水vs甲府はまだ終わっておらず、その経過を大宮の選手たちは知らない。ゴール裏は、遥か日本平に祈りを込めて歌い続けていたのかもしれず、その悲壮な空気に、選手たちは希望がついえつつあることを理解したようだった。NACK5スタジアム大宮に遅れること約40秒、選手たちが整列を終えてゴール裏へと歩きだした時、IAIスタジアム日本平に試合終了のホイッスルが響く。人事を尽くして天命を待った大宮だが、吉報は届けられなかった。
確かに大宮は人事を尽くした。15位・清水との勝点差は3。この試合に勝ち、なおかつ清水が負けるしか残留の望みのなかった大宮は、立ち上がりからアグレッシブにC大阪を圧倒した。高い位置を取るC大阪のサイドバックの裏を突き、17分までに6度のチャンスを作り、21分に訪れた7度目のチャンスで、ズラタンの折り返しを金澤慎がゴール左隅に流し込んで先制する。ただその後、大宮に守る意識が強くなったのは確かで、FWが相手のボランチをケアするあまり、C大阪にサイドへの自由な配球を許し、全体が自陣に押し込まれていった。サイドでボールを持たれ、プレッシャーがかかっていない状態で、警戒していた「セレッソのFWのランニング」(渋谷洋樹監督)が大宮の最終ラインを襲った。「早いタイミングでクロスを入れたときは良い攻撃になっていた」と南野拓実が語った通り、37分には丸橋祐介のアーリークロスに南野が飛び込むが、ポストに弾かれる。大宮はサイドバックとセンターバックの間、センターバック同士の間が広く空いており、45分にもバイタルエリアで杉本健勇に縦パスを受けられてピンチを招いた。
その大宮に追いつけなかった辺り、やはり降格圏の17位となったC大阪の攻撃は精彩を欠いていた。そして攻勢の中でのリスクマネジメントも、多くの下位チームがそうであるように不十分だった。後半開始早々の50分、大宮の自陣深くのクリアがカウンターにつながり、ムルジャが追加点。勝てば大宮と順位が入れ替わるC大阪はさらに攻勢を強め、大宮陣内で多くの時間を作ってゴールに迫るが、「最後のところでもたつくところがあった」(南野)ために、「こういう(勝つしかない)状況だったので、しっかり体を張っていた」(清水慶記)大宮のディフェンスを崩せなかった。むしろ作ったチャンスよりも、カウンターやその流れから奪われたコーナーキックで迎えたピンチのほうが多かったかもしれない。90分、南野のクロスから大宮ゴール前で混戦となり、倒れた永井龍の前にボールが転がるが、シュートは清水が右手一本で弾き出す。ホームゴール裏で「無敵大宮」の大合唱が始まったのは、その直後だった。
快勝というべき内容だったが、勝者に笑顔があるはずがなかった。清水の結果を知りながら、この試合のサポートに感謝するためゴール裏に並んだ選手たち、それを「無敵大宮」を歌いながら迎えたサポーターたちの心情は推し量りようもない。確かにこの試合で大宮は勝点3を手にした。しかしシーズンを終えて届かなかった勝点1が、あまりにも重い。結果論で言えば、この日以前の、33試合のどこかで勝点1を積んでいれば、J1に残ることはできたのだ。「そういう一つ一つの積み重ねが大切だということを、この1年間で学んだ」と、ミックスゾーンで橋本晃司は力なく呟いた。
16位に終わった要因は幾らでも挙げることができるが、それはマッチレポートの趣旨とは外れるため別の機会に譲りたい。ただ大宮もC大阪も、問われるべき最大の責はフロントの迷走にあることは間違いないだろう。両チームとも1年でのJ1復帰を目指すが、フロントの体質から変わることができなければ、それを実現できるほど今やJ2は甘いリーグではない。「失敗で痛い目にあった人間は必ず強くなると信じている。降格してもクラブは続くし、これをうまく利用して這い上がらないといけない。それはクラブにかかわる人たちの課題」と、渋谷監督は来シーズンへの思いを語った。J1昇格から10年目での節目――、大宮は変革を迫られている。
以上
2014.12.07 Reported by 芥川和久