2014年のレギュラーシーズンが終わった。熊本は最終節で福岡を3−1と下し、通算成績は13勝15分14敗の勝点54の13位。目標としたプレーオフ進出には届かなかったものの、昨シーズンからは順位も上げて、小野剛体制の1年目を締めくくってくれた。
ここでもいろんな話題を取り上げたけれど、振り返れば実に様々なことがあったクラブ発足10年目のシーズンだったように思う。
春にはGK陣の相次ぐ負傷で加藤竜二GKコーチが現役復帰(1試合限定。期限付き移籍で加入したシュミット ダニエルも頑張ってくれた)。またクラブはJ1ライセンス取得に向けて債務超過を解消するための増資と募金を行うことを発表。サポーターはそれを受けて募金活動を開始し、県内全ての市町村にペットボトルを使った募金箱を設置した。その波は関東や関西にも広がって多くの募金が寄せられ、増資も目標額の7,000万円を超え、クラブには無事、J1ライセンスが付与されることになった。
チームの成績は苦しい時期もあって決して順調、というわけではなかった。そんな中でも、試合内容や選手達の戦う姿勢が好影響をもたらして、平均観客数は7,000人のラインをクリア。クラブ発足時から掲げている「県民に元気を 子どもたちに夢を 熊本に活力を」という理念の実現に向け、着実に歩みを進めてきたことが感じられるシーズンでもあったと言える。
一方で、現場ではシーズン終盤まで激しいポジション争いが続き、チーム全体の戦力は開幕当初と比べてもベースアップした。特に顕著だったのが、ルーキーの澤田崇、中山雄登ら、若い選手がシーズンを通して主軸として活躍したことだ。またユースからトップに昇格した上村周平や嶋田慎太郎がデビューして将来を期待させるプレーを見せ、最終節では特別指定選手の野田裕喜(大津高2年)もJリーグデビュー、フル出場を果たしている。
一方で、藤本主税と吉井孝輔が引退を決め、さらに昨日行われたイベントで原田拓も現役を退くことを発表。それぞれのキャラクター、持ち味を生かしてチームを引っ張った彼らの引退は、チームが次の段階に入ろうとする時期にきていることを象徴しているようにも思える。
KYUリーグからJFLの2シーズン、そしてJ2に上がって1年を通して戦い抜いた池谷友良監督(現アスリートクラブ熊本代表取締役)時代の’08年まで。そこから、より魅力的なサッカーを展開しようと攻撃に軸足を置いた北野誠監督(現讃岐)時代の09年。そして「5年でJ1」という目標を果たそうと現実路線に舵を切った高木琢也監督(現長崎)体制の’10〜’12年。しかし叶わず、吉田靖(現浦和レッズレディース)監督のもとで再出発したものの、シーズン途中で軌道修正を余儀なくされた‘13年。
J2でのこの7年間はまったく順風満帆ではなくて、どちらかと言えば、嬉しいことよりも悔しいこと、悲しいこと、うまくいかないことの方が多かったような気がする。それでも、そうした浮き沈みを目の当たりにできるのもクラブが「そこに」あって、思いを投影して共有できるからこそ。そうした意味では、今年引退を発表した3人をふくめ、2005年にチームができてからこれまでに在籍した全ての選手、スタッフが、熊本の歴史を支えてきた。
小野剛監督を迎えた今シーズンは、先に触れたように若い選手達が多く台頭し、また苦しい展開になる試合でも最後まで、チームとしての戦うスピリットを表現し続けた。このことについて、今年、選手からコーチという立場になった北嶋秀朗アシスタントコーチはこう話している。
「今までだったらメンタル的に折れそうな状況でも、こっち側に戻ってこれるヤツらになった。試合に出られずもがいている選手、(原田)拓ちゃんなんかもそうだったけど、いろんな思いはあっても絶対に下を向かず、どうすればアピールして試合に絡めるかポジティブに頑張ってきたし、皆が同じ準備をして、同じ体温で練習に取り組んでる。監督のマネジメントももちろんあると思うけど、選手達が大人になって、本当のプロの集団になったな、と思います」
これから契約満了についても順次リリースが出されると思うが、少なくとも今シーズンを戦ったチーム、スタッフがつくりあげた一体感や結束力の強さは、最終節の試合後の記者会見で小野監督も話したように、これからも熊本というチーム、クラブの大きな武器になっていくと思う。
以上
2014.11.25 Reported by 井芹貴志