それは、試合開始直前の円陣。契約満了が発表された“守護神”が片足を高く上げると、スタンドが沸いた。お祭りではない、真剣勝負だ。それでも――。
19日から20日にかけて発表された、飯尾和也の現役引退、ユン ソンヨルの契約解除、野澤洋輔・玉林睦実の契約満了( /sp/jsgoal_archive/official/matsumoto/ )。その4選手がメンバーに名を連ね、野澤は先発起用。ホームの松本にとってはチームを去る選手たちに、最後に白星を贈って報いたいところ。ただし、アウェイの水戸もそれは同じことだ。
試合はお互いに決定的チャンスが訪れる一進一退の展開。19分の吉田眞紀人によるバー直撃シュートを皮切りに、21分にゴール前の混戦から抜け出した船山貴之がシュートを放つが、これは水戸ゴールを守る笠原昂史にセーブされる。26分には内田航平のクロスに三島康平が飛び込むが、これは飯田真輝が間一髪すくい出す。このまま0−0で折り返すかと思われた39分だった。セットプレーの好機を得ると、大久保裕樹がバイシクルシュートを決めて、先制に成功。1点リードで後半を迎えることになった。
この先、注目されるのは選手交替。先に動いたのは1点ビハインドの水戸で、内田に代え広瀬陸斗を投入して活性化を図る。しかし52分、左サイドからのクロスに合わせた山本大貴が相手DFに競り勝ち、ヘディングで追加点を挙げる。先日、第1子が誕生した鐡戸裕史への“ゆりかごパフォーマンス”も飛び出し、流れは一気に松本へと傾く。船山貴之のPKこそ笠原の好セーブで防がれたものの、71分の左CKをファーサイドに詰めた飯田真輝が合わせて、勝負ありの3点目が決まった。
一矢報いたい水戸は63分に鈴木隆行、73分には小谷野顕治とアタッカー陣を投入して状況打開を試みるものの、この日は中盤の位置でボールを失うことが多く、前線まで繋がらない不完全燃焼。対する松本は完全にリズムを掴んだ。耐える時間は耐えつつ、セットプレーあるいはカウンターで好機を創造するいつも通りのスタイルを完遂。選手起用でも、玉林、左アキレス腱断裂から約6カ月ぶりのアルウィン帰還となった塩沢勝吾、そして飯尾和と投入。その都度スタンドから大きな拍手と歓声が贈られた。
そのまま3−0で試合は終了。こうして松本は、今季最後の試合に最高の形で仲間を送り出すことに成功した。この試合のマン・オブ・ザ・マッチには、やはり野澤洋輔の名前を挙げたい。長いリハビリから復帰し、この日は落ち着いたプレーでクリーンシートに貢献。「カテゴリーにこだわりはない。トライアウトに出るつもりです」と口にする。まだ現役選手としての旅を終えるつもりはないようだ。
対する水戸。試合後の記者会見において、柱谷哲二監督は収穫と課題の両面を挙げた。収穫は若手・中堅の成長。新里亮や笠原の名を挙げ、「苦しさもあるが、順調に育っている」と手応えを見せる。一方で上述のとおり中盤でのボールロストがこの日の機能不全の要因の1つ。「隙がある、展開力がない、ボールを奪うところができていない」と率直に課題を口にした。逆に言えばその課題が修正できれば、ということ。その意味で来季に向けて大きな意味を持つ一戦となった。
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