他力本願とはいえ優勝の可能性が残されているとき、若いチームの試合への臨み方は難しい。必要以上のプレッシャーを感じてよそ行きのプレーが増えたり、あるいはアグレッシブな姿勢が消えてプレーが縮こまってしまうことは容易に想像できる。ましてや3週間ぶりの実戦である。通常では考えられないような内容に終始してもおかしくはない。しかし、この日の鹿島は違った。この試合ですべてを出し切ることだけに集中していたチームは、多少のアクシデントにも揺らぐことなく、見事な試合内容で勝点3を得た。
序盤から鹿島は積極的に試合を運んでいく。相手が最終ラインからビルドアップするのを見越して高い位置からプレスをかける。DFラインも勇気を持って高い位置をキープしてコンパクトな布陣を保つと、川崎Fはなかなか効果的な崩しを見せられない。[4-1-4-1]の布陣を早々に諦めて[4-4-2]に変更した。ただ、鹿島も試合勘が無いせいか相手のミスから奪ったボールを簡単に失ってしまう。パスのテンポも上がらずドリブルで仕掛ける場面が多くなると試合は時間の経過と共に膠着していった。
ところが45分、川崎Fの守備が一瞬崩れたところを見逃さなかった柴崎岳が、ゴール前の遠藤康に縦パスを当てる。すると、遠藤は体を当てに来たDFを逆に弾き返し、迷いなく左足を振ると、ふわりとしたシュートが西部洋平の頭を越えてネットを揺らし、鹿島が良い時間帯で先制点を奪った。
後半、川崎Fは福森晃斗に代えて森谷賢太郎を投入。右サイドにいたレナトを本来の左に戻し、左SBに下がった登里享平と連動した攻撃を仕掛けようとする。しかし、鹿島がコンパクトな布陣を保つため、なかなか左から攻められない。逆に、高い位置でボールを奪った鹿島が立て続けにチャンスを迎えると、53分には西大伍のクロスから赤崎秀平がヘディングシュートで追加点。
「この試合で点を取るのは特別な意味があるので嬉しかった。フロンターレとアウェイでやったときは出られず悔しい思いをした。やはりピッチに立って挨拶したかった」
アウェイでの川崎F戦には出場できなかった赤崎にとっては、大学時代の恩師である風間八宏監督に痛烈な恩返しとなる追加点をあげた。
途中、前夜から急性胃腸炎で嘔吐を繰り返すなど体調不良だった小笠原満男が交代するアクシデントに見舞われるも、選手たちは慌てることなくゲームを締める。替わりに出場したルイス アルベルトがCBの間に入ってゴール前のスペースを消し、相手にチャンスを与えない。アディショナルタイムにレナトのFKから1点を返されたものの、ほとんど相手に得点機をつくらせない内容でホーム4試合ぶりの勝利をあげた。
「誰が試合に出るのかを決めて準備するのは自分なのですが、やるのは選手です。選手たちが良い心理状態で試合を迎えなければならないし、試合中もそういう風にしていかないといけない」
試合後、そう語ったトニーニョ セレーゾ監督。見事なチームマネジメントで選手の集中力を引き出した。残り2試合は残留がかかったC大阪と、同じく優勝の可能性を残している鳥栖。どちらも難敵だが、今回と同じような準備ができれば自ずと結果はついてくる。
「どういう状況に今後なっていこうとまず自分たちの目標がある。それが3位なのか、2位なのか、1位で終わるのかわからないが、まず自分たちが勝たないといけないという状況がある。そのあと12月6日の試合の最後の笛のときに、自分たちの努力が結果として表れたらな、と思ってます」
この監督の言葉を信じて残り2試合を戦っていきたい。
逆にフロンターレはこれで3連敗。シーズン終盤の大事なところで主力に怪我人が出たとは言え、前半戦で大敗したチームとは完全な別チームになってしまっていた。
「やっぱり何でもないミスをあれだけ犯してしまうとこういう試合になる」
風間監督の表情はどこか寂しげだった。
以上
2014.11.23 Reported by 田中滋