この2014シーズンを振り返ると、最初から最後まで文字通り全力で“駆け抜けた”シーズンだった。味の素スタジアムで迎えた開幕戦で最高のスタートを切り、そのまま快走。中盤から終盤にかけて他チームが潰し合うなかで黙々と勝点を積み重ね、9月こそ足踏みはしたが10月は一転V字回復。そのままもたつくことなく3試合を残した段階で2位を確定。そして、先日のJリーグ理事会において、正式にJ1昇格が認められた。こうして、松本は2015シーズンを新たな舞台で戦うことになった。
それでもチームは生き物だ。であるからには新陳代謝は避けて通れない。19日から20日にかけて、飯尾和也の現役引退、ユン ソンヨルの契約解除、野澤洋輔・サビア・イ ジュンヒョブ・玉林睦実の契約満了が正式に発表された。全ての選手が今季の躍進を支えたヒーローであり、残念なことだ。ただ、繰り返すが避けて通れない道でもある。だからこそ、「去ってしまう選手たちのためにも、笑顔で送り出しましょう」と飯田真輝は気を引き締める。
もちろん、今節は公式戦である以上、現段階では出場の確約はなされていない。しかし、「最後の試合まで全力でやり切ることが僕の仕事」(飯尾和)、「昇格は決まったが、最後の試合は気持ちよく勝ちたい」(ユン)と、チームの一員として全力を尽くす構えを見せている。反町康治監督もこの試合を「お祭りではない」としつつも、湘南時代の2010年ホーム最終戦を振り返り、「(そのシーズン限りで引退を発表していた田村)雄三をベンチに入れたが使わなかったことを後悔している」と話す。どのような判断を下すかは指揮官に委ねられるが、必ず異論はあろう。難しい問題だが、筆者としてはどのような形になってもその判断を支持したいと思っている。
そして、この一戦で相対するのは水戸だ。今季ここまで12勝15敗14引き分けで15位となっているが、「一筋縄ではいかないチームだ。攻撃のテンポは良く、個々の技術も高い」と警戒するのは反町監督。もともと4バックのイメージが強かったが、現在は3−4−2−1のフォーメーションを採用している。「チーム得点王が誰かを考えないといけない」と指揮官も苦笑するように、ここまで得点源となっているのは吉田眞紀人。三島康平や山村佑樹らアタッカー陣が怪我で苦しむ中、堂々のチーム得点王。もちろん松本サポーターにはお馴染みの選手だろう。「もともとセンスはあったが、身体も切れて動きがシャープになった。競り合いにも強くなっている」と辛口の反町監督も認める存在となった。また、7得点を挙げている馬場賢治も「もちろん良く知っている」。この両者の“恩返し”が水戸の勝敗を分ける鍵となろう。また、水戸は同カテゴリーになって以来、松本に未だ勝ちがない(4敗1引き分け)。今節は敵地での対戦となるが、勝利への執念で燃えていることは容易に想像できる。
この試合はとりあえずJ1昇格プレーオフには関係がない。そのため注目度は他のカードに比べると劣るのかもしれない。しかし、上述のとおりお互いに負けられない理由が存在する。左アキレス腱断裂から長いリハビリを経て、ついに公式戦復帰を成し遂げた塩沢勝吾のアルウィン復帰も含め、見所満載の一戦だ。
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2014.11.22 Reported by 多岐太宿