「元気ですかっ!」
これまで、何度もサポーターの前で披露してきたアントニオ猪木のモノマネで挨拶を切り出した関根永悟選手。愛媛に在籍してちょうど10年。ムードメイカーで、サポーターの前でも明るく振る舞い、トレードマークの丸坊主から「愛媛の修行僧」と呼ばれ人気者だった彼が、クラブを離れる時がやってきました。
その挨拶では、何よりも先に述べたのがサポーターへの感謝でした。そして「サポーターからうまくなったねとか言われたこと、勝利の時の笑顔、負けた時のつらい思い、全てが思い出です」と話した後には、一瞬こみ上げてくるものを抑えるかのような瞬間もありました。しかし、その後「いろいろ考えたけど、忘れちゃいました」と笑いを誘い、涙をこらえました。それでも、やはり本音を隠すことはできませんでした。「正直、このクラブでみんなといっしょにJ1の舞台に立ちたかったです。残念!(笑)」
ここでも無念のメッセージを笑いに変えた関根選手。ゴール裏での挨拶に移っても悔しさを絶叫でぶつけ、「オレの最後なのに、客が少なーい!」とサポーターに文句を言っても、笑って許されるのは愛されキャラであるがゆえ。最後はゴール裏のスタンドに飛び込み、サポーターと肩を組んで笑顔のラインダンス。皆に愛されてきた、彼らしいパフォーマンスでした。
第41節・ホーム最終戦当日、スタジアムでは関根選手が愛媛にやってきた時のエピソードも紹介されていました。その関係者によれば、電話でセレクションの問い合わせをしてきたのは,締め切りが過ぎた後だったのだとか。それでもスタッフのはからいでセレクションを受けることができ、見事合格を勝ち取ったものの「そこから、まさか10年も愛媛でサッカー人生を歩むことになろうとは思いもしなかった」と振り返る関係者の言葉通り、関根選手のサッカー人生は苦労の連続でした。
1年目のJFL時代は鉄工所で働きながらプレーをする生活で、試合でもスタメンに入れない厳しいスタート。それでも、ニンジニアスタジアムの下にある球技場で行われたホームのHonda戦では、オールドファンの記憶に刻まれるスーパーボレーで愛媛初ゴールを決めてみせました。かと思えば、記念すべきJ初ゴールは相手のクリアボールをヘディングで打ち返した超ロングシュート(2006年のアウェイ水戸戦)。思わずチームメイトも笑ってしまう奇想天外さで、関根選手らしいゴールになりました。
記憶に残るプレーでサポーターを魅了してくれた愛媛の修行僧。常に「僕はへただから一生懸命、努力をするだけ」と続けた姿勢はその後、バルバリッチ監督の下で実を結びます。監督から絶大な信頼を得て、遂にスタメン定着。右サイドを駆け上がるだけで何かが起こりそうな期待感を抱かせる、そんなプレーでワクワクさせ続けてくれました。本当に、ここでは書き尽くせないほど様々な思い出を残してくれましたが、この2年間はグロインペイン症候群などケガと戦うシーズンになりました。やっとそのケガも癒えてきて、もう一花というところでの契約満了。「シュウ(昨季クラブを去った赤井秀一選手)がいなくなって寂しくなったけど、彼が違うクラブで頑張っている姿を見て、この1年間走り続けた」と言う関根選手が選んだのは、赤井選手と同じ道。「もう一度チャンスがあれば、違うクラブでも」
別れは寂しいけれど応援したい、彼が選んだ道。
まずは現役続行を目指して、男・関根永悟はこれからも進んでいきます。
以上
2014.11.18 Reported by 近藤義博