82分、菊池大介が自身この日2度目のゴールネットを揺らすと、湘南のベンチが歓喜に跳ねた。ひとつのゴール、ひとつの勝利を皆で分かち合う姿はいまに始まったことではない。そんな彼らがベンチ前で抱き合い喜ぶ光景に、「チーム」をあらためて思う。90分を通して揺るがぬチームワークなくして湘南の勝利は語れない。
たとえば松下年宏が左サイドからクロスを狙ったように、横浜FCは立ち上がり、相手の3バックの横のスペースで起点をつくり押し込んだ。対して湘南も、丸山祐市や遠藤航らDF陣が落ち着いて対応し、さらに相手の前傾を逆手に岡田翔平が幾度か裏を突く。
湘南の先制ゴールはそれから間もない。菊池の仕掛けからコーナーキックを取ると、10分、三竿雄斗の絶妙なキックに、「すごくいいボールだった。練習もしていたし、決められてよかった」と笑顔の通り、ウェリントンが得意のヘッドで応えた。
電光石火か疾風迅雷か。仕切り直しとなる横浜FCのキックオフ直後、湘南はすかさず畳み掛ける。ハイプレスで永木亮太がいきなりボールを奪うや、岡田とウェリントンを経て、最後はゴール前に躍り出た菊池が冷静かつ豪快に仕留めた。
「最初はうまくサイドのところでポイントをつくれていたが、1点取られ、背後や3バックの脇をうまく狙えなかった」と山口素弘監督が評したように、ビハインドを背負って以降、横浜FCはミスもあってなかなかシュートまで至らない。背景には、攻撃的な姿勢のなかでも弛まない、湘南の互いにカバーし合う高い意識があった。彼らはボールに対してひたむきで、真摯で、まっすぐだった。後半に入りファウルが増えるなどゲームが少し荒れ模様になっても、GK秋元陽太がクロスにしっかり対応するなどプレーは冷静で、危うさを感じさせるようなシーンはまったくなかった。
攻勢を続け、藤田征也や石川俊輝が好機を演出し、武富孝介が、岡田がゴールに迫った。さらに途中出場の選手たちも存在感を示した。宇佐美宏和は厳しいプレッシャーで守から攻への流れをつくり、中村祐也は入って早々ゴールに絡んだ。チームとして3点目となる82分の菊池のゴールは、中村がお膳立てしたものだ。88分にはカウンターから永木を経てウェリントンが流し込み、さらには開幕を前に怪我で離脱していた古林将太が大きな拍手と声援に包まれピッチに立った。
対して横浜FCは試合終了間際、黒津勝が掴んだPKを自ら沈め1点を返したが、序盤に立て続けに2失点して以降、相手に長くを主導され、シュートまで持ち込むことも儘ならなかった。ホームで迎える次節の最終戦、「自分たちのやってきたサッカーを出したい」と寺田紳一が語ったように、山口監督のもとで戦う最後のゲームを勝利で飾りたい。
湘南にとって今季のホーム最終戦のこの日、試合終了後にはセレモニーが行なわれた。「親会社の撤退から15年、皆さんの優勝だと思っている」眞壁潔代表取締役会長はファン・サポーターに語り、あわせて選手やスタッフに対する感謝を口にした。そして曹貴裁監督が「来年もみんなと一緒に喜び合いたい」と締め括ると、選手たちはスタンドへ上がりファン・サポーターとともに喜びを分かち合った。
「長い時間ピッチに立って勝利に貢献した選手はもちろん、その選手たちと一緒にピッチに立つ権利を得ようとしていた、残念ながらピッチに立たせられなかった選手たちも、それ以上に僕は誇りに思います」あらためて語られた指揮官の言葉に再びチームを思う。
「応援してくださるサポーターの皆さんをはじめ、いい芝をつくってくれるグラウンドキーパーさん、試合を盛り上げようと頑張ってくれている育成やクラブのスタッフ、我々のピッチを演出してくれるそういうすべての想いがここに結集している。その想いを忘れてはいけないし、全員の力だと思っています」。
この日の結果を受け、湘南は30勝8分3敗、83得点23失点、勝点98を積み上げた。そのプレー、その姿勢、そのチームワークで、観る者に大切なことを教えてくれる彼らは、再び勝点3を目指し、最終節へと向かう。
以上
2014.11.16 Reported by 隈元大吾