前節大分戦、アディショナルタイムで2得点を決めて勝利した水戸。チームはかつてないほどの歓喜に包まれたわけだが、同時に選手たちは「サッカーの怖さを知った」と声を揃えた。敗色濃厚の展開からわずか数分で勝利を手にすることができたということは、その逆もあり得るということである。「あらためて気を引き締めないといけない」(本間幸司)と兜の緒を締め直して挑んだホーム最終戦であったものの、わずか1つのプレーからチームは崩れ、逆転負けを喫するという「サッカーの怖さ」を再び痛感することとなってしまった。
序盤から主導権を握った水戸は9分に流麗なパスワークで栃木の守備を崩し、最後は吉田眞紀人が豪快にシュートを蹴り込んで先制。幸先のいいスタートを切った。その後も水戸ペースで試合は進み、再三チャンスを築いた。点差を広げたい水戸と追加点を許したくない栃木の気迫がぶつかり合う激しい攻防が続いた。
そして56分、スルーパスを受けて左サイドを抜け出した田中雄大が折り返したボールが栃木DFの腕に当たり、水戸がPKを獲得。勝負を分ける大きな局面を迎えた。キッカーは馬場賢治。思い切り右足を振り抜き、強烈なシュートを放った。だが、ゴールポストにはじかれ、ゴールならず。意気上がる栃木の選手たちに対し、水戸の選手たちはショックを隠しきれなかった。
3分後に栃木は前線のターゲットとして大久保哲哉を投入。徹底的にロングボールを前線に入れて、水戸の最終ラインに圧力をかけてきた。「(気持ちが)落ちてしまった」(柱谷哲二監督)水戸は対応が曖昧となり、跳ね返すことができずに押し込まれることに。そして、62分に大久保にPKを叩きこまれると70分には不用意なファウルで与えたFKから逆転ゴールを許してしまった。PK失敗からわずか15分間での逆転劇。水戸が見せたメンタルのエアポケットに栃木はうまくつけ込んだ形となった。
その後、水戸は鈴木隆行とオズマールを投入し、怒涛の反撃を繰り出したものの、ゴール前で体を張る栃木の守備をこじ開けることができないまま試合終了。歓喜に沸く栃木陣営。北関東ダービーで意地を見せたと同時に今季初の逆転勝利。さらに約半年ぶりの連勝。シーズン終盤になってこれまでやってきたことが形になりつつあることを結果で証明してみせた。「今まではひっくり返す力がなかっただけに素直に評価していいと思う」と殊勲の決勝ゴールを決めた岡根直哉は満面の笑みを見せた。
一方、水戸の選手たちは「今季を象徴する試合だった」と肩を落とした。試合は支配しながらもチャンスを生かしきることができず、そして流れの悪い時間帯を耐えきることができずに勝利を逃し続けてきた。前節大分戦の勝利で流れが変わるかと思いきや、再びホーム最終戦でこれまでの悪い流れが顔を出してしまった。最後まで今季の課題を克服する姿をホームのサポーターに見せられなかったことが何よりも悔やまれる。
ただ、今季のチームが成長しなかったかというと、それは強く否定したい。着実にチームはレベルアップしていき、個々も大きく成長した。昨季まで絶対的な存在だった本間幸司や鈴木隆行、冨田大介といったベテランからポジションを奪う選手も現れ、チーム内の競争は激化した。また新たな段階に突入しようとしている。この日先発した選手の中で年間通して出場した経験のある選手は数人。それ以外の選手たちは今季多くの経験を手にすることができた。これは決して無駄ではない。そして、悔しい思いをしたことも成長の糧になるはずだ。今季、飛躍を遂げた吉田眞紀人はこうシーズンを振り返る。「この悔しい思いを感じたことは無駄ではないと思っています。この順位でしか味わえないこともある。気持ちよく勝ち続けて終わるシーズンもあれば、悔しさを味わうシーズンも必要だと思います。水戸は僕も含めて、勝負に対してもう少し強い気持ちを持ってやらないといけないと思えました」。
サッカーの怖さを痛いほど噛みしめた1年。この経験を生かすも殺すも自分たち次第だ。吉田はこう続けた。「あと1試合戦ってシーズンは終わるけど、そこでリセットして思いが薄れてしまっては、意味がない」。この敗戦の悔しさを絶対に忘れてはいけない。そして、今季感じた痛みを来季の大きな力にしなければならない。「今季の悔しさを来季倍にして返す」。来季続投が決まっている柱谷監督は力強い口調でそう宣言した。シーズンが終わる感傷に耽っている暇はない。戦いは次節で終わるのではない。新たな戦いの幕はすでに切って落とされている。
以上
2014.11.16 Reported by 佐藤拓也