4位・北九州の今シーズン、ホームのラストゲームとなる。現在の北九州が目指しているのはクラブ最高位の3位。その順位を一度踏むのではなく、必ずその順位で終えるという強い意志が残り3試合の原動力になっている。「プレーオフは3年目だが(導入前の)ノーマルな考え方では3位までが上がる。4位や5位で終わるのとでは全く違う」と柱谷幸一監督。指導にも熱が入る。
「今までとは違うサッカーになる」。そう話したのはキャプテンの前田和哉だ。この試合に出場すればJ1・J2通算300試合出場の大台に乗る。「目の前の試合に向けて準備してきた結果であって300を目指してきたわけではない。プロ10年目。1年で割れば30試合をコンスタントに出られ、周りの選手やスタッフ、使ってきてくれた監督に感謝したい」と振り返る。その前田が「違うサッカーになる」と言ったのはもちろん個人記録を念頭に置いたものではなく、今季のチーム力を本城で示すことのできる最後の機会だから。「湘南はJ1に行くチーム。個人がどれだけ戦えるか、それがチーム、戦術としてどれだけ通じるかを証明しなくてはいけないと思う。ベースを変える必要はないが、受けて立つのではなく自分たちから圧力をかけることもしないといけない」と意気込む。
ただ、湘南の圧倒的な攻撃力を封じ込むことは容易いことではなく、北九州も前回対戦では2失点している。それでも当時に比べ北九州の守備力は大きく向上。グループディフェンスを掲げDFとMFはほつれにくい網を張っている。適度な距離感が体に浸透してきていると言えるだろう。だが、網の結び目にある選手でここぞというときには体を張って危険の芽を摘んできた八角剛史が今節は出場停止。ボランチのバックアッパーは下村東美、新井純平、鈴木修人、山之内優貴らであり、今節に限れば前者2名のどちらかが有力だ。
下村は指揮官が「大島、(下村)東美、ミヤ(宮本)がすごくいい雰囲気を作ってくれている」と名前を挙げる貢献者の一人。チームに落ち着きを与え守備の安定度合いも高い。下村自身も「若い頃は試合に出られないとメンタルが崩れたことがあったと思うが、それは周りにいい影響を与えていなかった。今はいい雰囲気を作ることが自然にできてきているのかなと思う」と語る。もちろん出場となれば古巣との対戦となり、気合いも入るところだ。一方で新井はケガが響いて今季こそ1試合の途中出場にとどまっているが、昨季見せつけたように展開力がある。風間とコンビネーションを組むことでスピーディーに前に付けていくことができそうだ。
いずれにしてもフレッシュなボランチと組むことになるのが急成長株の風間宏希。2試合連続ゴール中の風間がゲームコントロールのカギを握っていることは言うまでもない。前節の讃岐戦ではコーナーキックのクリアボールをダイレクトに振り抜き、キックの正確さとポジショニングの上手さを同時に表現してみせた。ただゴールに傲ることはなく「まぐれでした」と言う風間は、ゴール後にチームとして追加点を取りに行けなかったことを悔やむ。「(下がった)雰囲気を戻すことは難しかった。もっと意識していいサポートをすれば続けていけたはず」。反省点をバネにゴールはもちろん、同じく好調の池元友樹への効果的なラストパスも見てみたいところだ。
前節の群馬戦で4試合ぶり、2位以内確定後としては2つめの白星を挙げた湘南。ゲームは押し込みながらも決めきれない展開が続き、今季の湘南であればことごとくものにしてきたはずのチャンスを逸していた。早々と優勝を決めたことによるマネジメントの難しさが表れていたと言っても過言ではあるまい。しかしそれでも勝ちきるところに曹貴裁監督(湘南)の妥協を許さない姿勢もまた重なった。北九州の柱谷監督も「監督がモチベーションを選手に付けてきている。いいゲームをしているので厳しくトレーニングしているのではないかなと思う」と評する。得点ランキング3位のウェリントンを軸に、セカンドボールからも人数を割いて厚く展開する。優勝してもなおその強さを誇示することができるか。湘南にとっても守備力の高まってきている北九州との対戦はJ1に向けた踏み台になるだろう。
堅いブロックを後ろ盾に階段を昇ってきた北九州と、厚い攻撃を最大の武器に昇格へと突き進んだ湘南。今季の本城での見納めにはふさわしいゲームになりそうだ。
2017年春の新スタジアム竣工まで同じレギュレーションが続くならば、本城での残り試合は43試合。多い? いやここまでの苦節を思えば、もうカウントダウンさえ始めてもいいだろう。『2014年シーズンも北九州は強かった』。いつまでも褪せぬ思い出を抱くため、泣きも笑いも受け止めてきた本城に明日も集まろう。
以上
2014.11.08 Reported by 上田真之介