88分まで岡山が掴んでいたものは、くっきりとした勝利のイメージ。そこにあったものは、押谷祐樹のゴールへの思いとチームワーク、先制されても追いつき、逆転する胆力。ボールを低い位置で奪われても約50メートル、相手に食らいついて行く田所諒の走り、繰り返す精巧なクリアと大黒将志への人数をかけたマーク。京都・福村貴幸の8分の先制点の後、前半のうちに岡山は逆転に成功したが、89分と90+2分の大黒のゴールで、勝点3を手にしたのは京都だった。
ボールを奪って何度も仕掛けて行った押谷。彼が秘めていたのは、「前節の最後に自分が外したから、今日は絶対に点を決めてやる、という思いは強かった」。千明聖典は、「内容自体はこの7試合、出せていなかったことがすべて出せた」と振り返る。しかし、後半に入って岡山は自陣でしのぐ時間が続いたことは事実。田所諒は、「引こうと思ってなくても引かされるのが、現状かなと思う。押し込まれたところで、しっかり繋ぐことが出来ない」。上田康太は、「そこで運動量を上げて、もっと前に絡んでボールを落ち着かせなきゃいけなかった」と話す。
前半から両チームともに狙いとする攻撃の形を作り出し、全員が関わってその良さを発揮した戦いだった。それだけ昇格プレーオフ進出をかけたゲームは熾烈だということだ。京都がポゼッションしてサイドを起点にゴール前の大黒へ送り込むボールは、何度か岡山がカットし、シャドーの関戸健二と押谷、トップの清水慎太郎に右ワイドの澤口雅彦が絡んで決定機を引き寄せた。しかし8分、京都の左サイドから工藤浩平のクロスが大黒にわたり、ヘディングシュートがポストに当たって跳ね返ったところを福村が押し込んで京都が先制に成功する。
京都にとっては待望の先制点だったが、「その後プレーが小さくなって、相手3バックの外を全然使わなくなり、ちぐはぐになってパス回しのテンポが遅れていた」と京都・川勝良一監督。一方、岡山は「またやられた感」を拭うようにゴール前の守備の意識を高めながら、ボランチを起点に攻撃のリズムを作り出していく。そして15分、中央の押谷がキープしたボールを右の澤口へ。澤口がクロスを送って、走り込んできた左ワイドの田所がシュート。これで同点に追いつく。さらに33分、岡山は相手陣内でチャンスシーンを作った岡山は、幾度か阻まれながらもこぼれ球を拾い続け、最後は澤口のクロスに押谷の鋭いヘディングシュートがゴールを突き刺して逆転。関戸健二の鋭い切り返しからのキープ、そしてこのゲームで2つ目のアシストをした澤口の落ち着いたプレーが光った。
後半に入ると両チームが展開に沿って攻撃的カードを投入する。岡山は関戸に代わって入った怪我から復帰の片山瑛一、久保裕一、妹尾隆佑。京都は伊藤優汰、三平和司、横谷繁。それぞれが役割を果たしたが、岡山の片山はGKと1対1のシーンを作り、別の場面ではループシュートを放つなど、決定機に絡みながら決めきることは出来なかった。京都は伊藤、三平が入ったことで岡山の守備を崩す回数を増やし、岡山はGK中林洋次の好セーブがチームを助けた。しかし最後の最後に待っていたのは、大黒将志という存在だった。岡山が1点リードのまましのいできたが89分、CKのクリアボールを工藤が三平へ。三平のヘディングで当て、それを大黒が押し込んで土壇場で追いつく。しかし京都の追い上げはこれだけにとどまらなかった。90+2分、再びCKからドウグラスが落としたボールを大黒が決めて鮮やかな逆転劇を見せた。
リーグ戦残り4試合となったところで繰り広げられた、エキサイティングなゲーム。長く6位以内の順位にいながら9月中旬以降8戦勝利がなく、4連敗となった岡山は今、チームの成長の過程のクライマックスにいると言えるのかもしれない。それは過酷で非情で、自分たち以外の助けがない。5年以上岡山でプレーする選手が多いチームが残り3戦をどう戦うか。最終節までの、寄り添わずにはいられない時間だ。京都は勝点を「55」に増やして、6位・大分との勝点差は「5」とした。「可能性がある限り狙い続ける」両チームの2014年11月は始まったばかりだ。
以上
2014.11.02 Reported by 尾原千明