2009年途中から柏の指揮を執るネルシーニョ監督は、今季限りでの退任が決まっている。したがって、彼にとって、2014年J1第30節の仙台戦は、ひとまず柏の監督として最後の仙台戦ということになる。
「いつも仙台とやる時は拮抗して激しい試合になる」と試合の記者会見でも、ネルシーニョ監督は切り出した。2011年の初対決以来リーグ戦で今回も含め8度、ヤマザキナビスコカップ(2011年)で2度の対戦を経て、勝っても負けても決着は1点差。今回も1点差だった。2011年の4回の公式戦のうち3戦が後半アディショナルタイムの決着だったが、それを思い出させるかのように、今回の対戦も後半のアディショナルタイムに決着した。
前半は両チームにおいて、新たにチャンスをつかんだ選手の活躍が光った。先制したのは柏。序盤の仙台の攻撃を落ち着いて受け止めると、反撃した20分に相手陣内でFKを獲得。ここで、秋野央樹が浮き球のキックを送ると、渡部博文が相手マークを外してヘディングシュートを決めた。
このゴールの後は、柏ペースで時間が進んだ。この日の柏は大谷秀和の出場停止を受けてボランチでは栗澤僚一と秋野がコンビを組んでいた。リーグ戦では第19節以来の先発出場を果たした秋野は「ボランチでの公式戦は久しぶり。タニ君(大谷)と同じプレーはできないので、自分のいいところを出せたらと思っていました」と、左足から適確なパスを出して攻撃の組み立てに貢献。彼の活躍もあって、柏は6本のCKを奪うなど、仙台を押しこんだ。
ところがこの柏ペースの時間帯に、仙台が追いつく。柏が前がかりになっていた39分、仙台は赤嶺真吾からボールを受けた梁勇基が、深い位置から糸を引くようなスルーパスを出す。それを飛び出して受けたのが、この試合で第23節以来の先発出場となった武藤雄樹だった。シュートを選んだのは左サイドの角度のないところだったが、「毎日練習している角度だったので、自信を持って蹴れました」と、渡部や鈴木大輔の守備も苦にせず同点ゴールを決めた。
これで再び、ゴールをきっかけに主導権が移る。仙台は後半になると中盤でのセカンドボールの拾い合いで梁と富田晋伍が存在感を発揮し、この両ボランチからの展開でチャンスを作った。後半は逆に仙台が6本のCKを得ていた。それでも59分に石川直樹がCKに合わせたシュートが桐畑和繁の好セーブで止められるなどして、スコアはなかなか動かず。
ネルシーニョ監督が67分に太田徹郎と大島康樹を同時に投入したり、渡邉晋監督が「しかけの部分で、点を取りたいメッセージを伝えたかった」と佐々木勇人を投入したりと、両チームとも勝点1ではなく3を狙う選手交代を実行。仙台が押す中でも77分に柏がカウンターから大島がシュートチャンスを迎えたように、どちらに転んでもおかしくない展開で、試合はアディショナルタイムを迎えた。
そして最後に笑ったのは柏だった。90+2分、FKを渡部が「ハイボールが来たら勝てる自信はあった」と、ファーサイドで合わせて折り返す。その先にいたレアンドロが、確実にフィニッシュ。アウェイの地に駆けつけた柏サポーターの目の前で決勝点をもぎ取った。またしても僅差での勝負となったが、今回勝利したのは「ACLへ近づくためには落とせない試合」「2006年からこの仙台で勝てていないことを吹っ切りたいと全員が思っていた」(いずれもネルシーニョ監督)という柏だった。
この試合における3つのゴールシーンでは、“苦しい時間帯”を耐え、隙を突いた方にゴールが生まれたもの。柏はACL出場権を獲得するために、仙台はJ1残留とその先のために、それぞれ残り4試合のなかでも耐えなければいけない時は何度も来るだろう。この僅差の勝負で得たものが、厳しさを増す11月以降の戦いでそれぞれに生きることを期待したい。
以上
2014.10.27 Reported by 板垣晴朗