『負けに不思議の負けなし』
数々の修羅場を指揮してきたプロ野球の名監督の言葉である。結果を得るために、手段は分かっているものの自分たちのミスや相手に防がれてしまってあと一歩のところで結果に届かないことは良くある話。このような時には、手段を変えるか相手を欺くかしないとなかなか結果にはつながらない。まさに不思議の負けはないのである。
『届かぬパットは入らない』
我々、素人ゴルファーがグリーン上でよく使う言い訳である。グリーン上の芝目や傾斜などを読み切っても、カップまで届かなければボールはカップに入ってくれない。表現を変えればサッカーとて同じこと。
『打たぬシュートは入らない。打っても枠に飛ばないと入らない。枠に飛んでも相手にブロックされると入らない』
単純なシチュエーションなのだが、サッカーは奥が深い。今節の鳥栖対新潟戦は、勝たないといけない理由をあげると鳥栖の方がはるかに多い状況であった。しかし、勝ったのは新潟。この試合結果のターニングポイントは、“タテ”への意識と対応だった。

Ｊリーグの中で、最も似たスタイルを用いている鳥栖と新潟。お互いに、ストロングポイントもウィークポイントも知っているはずである。ましてや、第30節での試合となればお互いに研究し尽くしているだろう。そんな中で求められるのは起きている現象での対応力。この試合は、この対応力の差がスコアに出たと言っても過言ではない。いくつかの事例を挙げておく。読者諸兄も、録画を見返しながら検証していただきたい。

鳥栖は・・・
開始2分に鳥栖FW池田圭が、新潟DFの裏から中央に入ってきてGKと一対一の場面を作り左足でシュートを放つ。64分には、新潟DFをFW豊田陽平がひきつけ、ボールを後方のMF水沼宏太に送り右足でシュートを放つ。90+1分には、鳥栖MF早坂良太がクロスに合わせてゴール前に飛び込みボールに触れた(ように見えた)。決定的とも言えるシーンではあったが、新潟GK守田達弥やCB大井健太郎の身体を張った守備でブロックされてゴールを割ることはできなかった。
これらのシーンを顧みると、鳥栖が新潟ゴール直前まで決定的な仕事をしていたことがわかる。しかし、「チャンスを決めきれる精度、シュートの意識だったり強い気持ちだったりを作っていかないといけない」とラストのところで課題を挙げた吉田恵監督（鳥栖）に対し、柳下正明監督（新潟）は「非常に難しい守備を最後の最後まで集中を切らさずやれた」と高評価で振り返った。このうち一本でも決まっていれば、試合の流れは大きく変わっていたかもしれない。

一方の新潟は・・・
16分には、新潟MF小泉慶が、鳥栖中盤のスペースを突いて持ち込んで右足でシュートを放つ。31分には、新潟MF田中亜土夢から中央やや右寄りでフリーとなったFW指宿洋史にパスをつないで右足でシュートを放つ。これは、ゴールの枠をとらえることができず得点には至らなかった。42分、中央での混戦の中からMF田中亜土夢が中央でフリーになった指宿につなぎ右足でシュートを放つ。72分には、左サイドでMF山本康裕が仕掛けて中央の指宿につなぎ、右に流れたFW田中達也につなぎ右足でシュートを放つ。これは、フィニッシャーとなった2人が、鳥栖DFラインを良く見てフリーな状態でボールを受けてゴールを決めることができた。
相手（鳥栖）選手との距離や間合い、ボールを受けてからの置き所、シュートの角度と強さと方向、どれをとっても完璧なプレーと言える。タテへボールを運ぶのはサッカーでは定石のプレー。目指すゴールに近づくからである。しかし、鳥栖のボールホルダーに対してタテへの選択肢を消すような守備で入って行った新潟の選手たちのプレーは最後まで途切れることはなかった。逆に、新潟のボールホルダーに対して同じようにタテへのプレスをかけていた鳥栖だが、その横にいる新潟の選手にスペースを与えてしまっていた。簡単にヨコへのパスでフリーな状態を作られて失点してしまった。流れの中から得点できた新潟は、「一つでも上の順位を目指して戦える」(FW指宿洋史)と立ち直りのきっかけとなった試合となる。敗れた鳥栖は、「そこまで(勝点が)引き離されているというわけではないので、難しい状況ではあるが・・・」(吉田恵監督)優勝とACL出場権獲得のためには後が無くなった試合となった。

どんな形でも、ボールが完全にゴール内のラインを超えた段階で得点は成立する。そこに至るまでには、いくつもの過程を経ているが、相手もそれを阻止しようと様々な策を用いてくる。その攻防がサッカーの楽しさであり、面白さでもある。プレーの第一選択肢はシュート。サッカーでは、相手の一番嫌なプレーはシュートなのである。

以上

2014.10.27 Reported by サカクラゲン