アイドルを探せと歌っていたフランスや日本の歌手がいたが、J1第30節・仙台vs柏ではニューヒーローを探したい。もちろん、これまで活躍を続けてきた選手達が活躍することも必要なのだが、シーズンも終盤を迎え、今までの積み上げにさらに上積みを加える存在が出てくるとさらに試合は面白くなる。今節のように、それぞれに負傷や出場停止などで欠員が出るならば尚更だ。
仙台の梁勇基は、前回(第15節)のこのカードを負傷で欠場した。しかし「柏とやるときはいつも拮抗した試合になりやすいイメージがあります」とこれまでの戦いを踏まえ、「もともとバランスのあるチームで、今はさらにレアンドロ選手や工藤選手のように攻撃陣の決定力が高くなっているイメージ。焦れずに先制点を狙いたい」と展望する。
柏がネルシーニョ監督のもとで獲得した財産は、数々のタイトルにとどまらない。長期政権のもとで築いた強さのベースがある一方で、指揮官は相手によるカスタマイズもいとわない策士でもあり、柔軟性もまた今の柏の武器である。前節はハーフタイムに両アウトサイドの選手を交代し、右サイドのキム チャンスのクロスから決勝点をもぎ取った。そして今節はただでさえ読みにくいメンバー構成が、大谷秀和の出場停止によりさらに読みにくくなった。ボランチを中心としたメンバー構成、そして代わってチャンスを得た選手の活躍に注目したい。
柏については、打ち合いとなった前々節でも、我慢比べとなった前節でも、太田徹郎が2試合連続で決勝点を決めていることも見逃せない。前節に出場停止の鈴木大輔に代わって入った若き中谷進之介もまた、無失点勝利の立役者としてニューヒーローの資格を満たした。彼らに続く存在は現れるか。
一方、この柏を迎え撃つ仙台は、エースのウイルソンが左膝の負傷で離脱した。「一番悔しいのは彼自身に違いない。代わって出場機会を得る選手も含め、彼の思いを背負って戦います」という渡邉晋監督は、空席となったポジションに「メンタル面の充実した選手を選びます」としている。ニューヒーローをまずはこのポジションに期待したい。
前節に途中出場で役割を引き継いだベテラン・柳沢敦も候補の一人。そして前節はベンチ外で苦しい思いをしたが、第20節にウイルソンに代わって先発出場して2ゴールをあげた武藤雄樹も「前(のポジション)の選手として、やらなければいけない。結果を出さなければいけない」と意欲を見せる。これまでの渡邉監督の用兵からは、野沢拓也を1.5列目のような位置で起用するプランや、3トップにするプランも考えられる。
また、ここ4試合の仙台は守備からリズムを作る戦い方を徹底しているために、守備的ポジションの選手にニューヒーローが現れる可能性もじゅうぶんにある。たとえば練習で好調だったことを買われ前節にベンチ入りした藤村慶太は、この試合では出番がなかったものの、終盤戦に向け「自分の良さを出してチームに貢献したい」とチャンスを狙い続けている。ボランチで起用される可能性が高いが、場合によっては攻撃的ポジションでもプレー可能だ。あるいは、前々節・浦和戦で守備強化のため投入されながらもゴールを決めた村上和弘のように、ベテランが期待以上の活躍をすることもまた、ありうる。
チャンスに備えて鍛錬を続ける選手の中から、拮抗した試合を動かす者の登場を望みたい。
安定感のある仙台にも、勢いのある柏にも、ニューヒーローは求められている。ポジションは問わない。年齢も問わない。人数も問わない。何なら全員がヒーローでもいい。この終盤戦のJリーグを、さらに熱くしてくれ。
以上
2014.10.24 Reported by 板垣晴朗