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【J1:第29節 川崎F vs 鳥栖】レポート:取り戻した自信を武器に、川崎Fが鳥栖を完封で下す。(14.10.23)

冷たい雨の中、それでも等々力を訪れてくれた10,609人のお客さんの前で、4試合ぶりの勝利となった。2点取れたことはもちろん、無失点で終えることができた、いい試合だったと余韻に浸りながら、ふと、そういえば、今日の試合は中村憲剛が先発のピッチを踏んでいなかった、という事を思い出した。試合前に感じていた「そこに居るべき選手が居ない」ことへの不安は、試合開始とともに消えていた。

ヤマザキナビスコカップでG大阪に敗退し、続いて行われたリーグ戦でのG大阪とのアウェイマッチも落としていた川崎Fは、この鳥栖戦を前に大久保嘉人が言うところの「どん底」にいた。「今はフロンターレに来て、一番悪いと思うよ」と話していた大久保は、その理由として自信の欠如を挙げていた。何かを変える必要があると思われていたこの試合を迎えるにあたり、風間八宏監督が選んだのは、やれていた事をやり直すというごくシンプルな練習だった。

試合後の風間監督は「動かない相手をどう崩していくのかという事を選手たちが全員わかっているはずなんですが、それを(ここ数試合は)やっていなかったということで、この2日間、もう一度頭をしっかり切り替えるということで(練習を)やりました」と述べている。要するにもともと身に付けていた技術を、もう一度引き出すための練習をしたのである。相手に合わせたフォーメーション練習をしたわけでも、何かスペシャルな布陣を試したわけでもなかった。今ある戦力で、今考えられる布陣の一つを忠実に行う。それが、勝利を手繰り寄せる事となった。

前述の通り中村を欠く川崎Fは、大島僚太と山本真希が組むボランチコンビに対して大久保が中盤に下がり、パスを引き出す。このスタイルはここしばらく不変のものではあったが、孤立気味という悪い意味で目立っていたそれまでとは違い、試合の流れの中でのこの大久保の動きに不自然さは感じられなかった。それは周囲の選手と大久保の連携がうまく行っていたからで、攻撃の起点としてうまく機能しているように見えた。ただ、前半の立ち上がりは鳥栖に一定時間ペースを握られる時間帯もあった。そんな鳥栖の攻勢を、強気にラインコントロールする實藤友紀と谷口彰悟のCBコンビを中心とした守備陣が最後の最後で体を張って跳ね返し続けた。

セットプレーを含めた鳥栖の攻勢をしのぎつつ、前半20分には鋭いカウンターから大久保がGKとの1対1に持ち込む場面もあったがこの決定機を大久保は決めることができず。またレナトも再三に渡り左サイドから決定機を作るがゴールすることができなかった。もちろん、決定機を作っていたのは事実で、良い展開ともいえるが、良い展開と勝利とは似て非なるものである。そういう意味で、一抹の不安を抱えながらの試合は、後半のキックオフを迎える。

そんな試合は、後半開始早々の49分に動く。この試合、何度となく左サイドを突破してきたレナトからのクロスがファーサイドに入ると、なぜだかそこに田中裕介が居た。「セットプレー崩れ?」とも思うそのポジショニングについて田中裕介に聞くが、本人は「分からない」と答える。「スルスル上がっていった」と話すその理由は「(そこにボールが来るかもしれないという)感覚」で「もし仮に取られても戻れる体力があった」のだと話す。手前に居た小林悠も、このクロスに反応していたのだが、その小林を見て、心の中で「かぶれ!」と叫んでいたという。嗅覚に導かれて取っていたポジションでボールを受けた田中裕介はシュートでプレーを完結させ、これがゴールネットに突き刺さった。自信を持てずに居た取材者よりも、自信を取り戻すべくチームを作ってきた選手たちにとって、必然的なゴールだったのかもしれない。

ポジションを縦方向に崩すことで、相手チームの対応は難しくなる。ボールを簡単に失うチームであれば、そうした思い切ったポジション移動はできない。大胆なポジションを選手個人が自ら判断して取れているというところに、この試合における川崎Fの状態の良さと、それを導いた自信が見て取れた。

先制した川崎Fが追加点を奪うべく攻勢を続ける中、守勢に回っていた鳥栖は52分、54分と藤田直之が立て続けに警告を受けて退場処分を受ける。数的優位となった川崎Fは、ペースを崩すこと無く試合を進めると、63分の小林悠が追加点を決めた。

持ち味のターンを決め、寄せる相手DFのプレッシャーをものともしないファインゴールについて小林は、「あんなにフリーだとは思わなった」とパスを受けた瞬間について振り返る。その小林に大島僚太が鋭いパスを付ける。大島が出した「凄く鋭いパス」を受けた小林は「フリーだぞ」というメッセージを感じたのだという。結果的にゴールに繋がるのだから、大島のメッセージは小林に届いたということだろう。風間監督が狙い、準備してきた2日間の練習の成果が出たゴールだったと言っていい。

2失点目の直前に鳥栖の吉田恵監督は負傷のため水沼宏太を代えざるを得なかった。いやらしいポジションを取り、精力的に動いていた水沼の献身性が鳥栖にいい影響を与えていただけに、手痛い交代だったのは間違いない。鳥栖は、67分に池田圭。84分にも豊田陽平と、攻撃的な選手を交代させているが、彼らが交代せざるを得ない働きにとどまったという点で、鳥栖にとっては難しい試合だったと言える。ただ、それにしても2点のビハインドの中、鳥栖は一人少ないことを感じさせないハードワークで川崎Fに対抗し、拮抗した試合を続ける。74分には、實藤のミスをきっかけに手にしたチャンスを迎えるが、これはミスした實藤自身がシュートコースを読んでかき出すファインプレー。また鳥栖は持ち味の一つであるセットプレーで迫力を見せるが、流れの中では川崎Fのパスワークを思うように分断できず、決定機を思うようには作れなかった。

鳥栖のストロングポイントであるあたりの強さにも負けず、また中村不在の不在を感じさせない戦いぶりを見せた川崎Fが、鳥栖との上位対決を2−0で制して3位へと浮上。リーグ戦では4試合ぶりの。ホーム等々力でのリーグ戦では6試合ぶりの勝利を手にした。

他会場の試合結果も踏まえ、29節を終えて川崎Fは順位を3位とし、首位浦和との勝点差を6へと縮めることに成功。追撃体制を整えている。

以上

2014.10.23 Reported by 江藤高志
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