開幕節以来の再戦である。あのときのスコアは0-2だったが、「本当に何をやったらいいのかわからない状態だった」との高橋祥平の言葉に象徴されるように、スコア以上に内容でチームの完成度の低さを露呈し、大宮にとって苦しいシーズンになることを予感させた。あれから7カ月半、大宮は現実に苦しいシーズンを過ごしているが、9月以降は5勝1敗で、一時は17位に落ちた順位も14位まで浮上させた。意外だったのは横浜FMのほうで、昨季2位&天皇杯優勝チームが、今年は現時点で10位を漂っている。横浜FMの樋口靖洋監督は2008年に大宮の監督を務めており、大宮の渋谷洋樹監督は当時その下でコーチを務めていた。「開幕戦とは違った姿を見せたい」という渋谷監督の思いは強く、それは大宮の選手たちも同じはずだ。
「違った姿を見せる」というのは、大宮は必然としてそうならざるを得ない。開幕戦のスタメンのうち、ラドンチッチ(→大分)、チョ ヨンチョル(→カタールSC)、村上和弘(→仙台)は既にチームを去った。金澤慎と今井智基は前節に負傷し、家長昭博も出場停止となり、もしかすると両方の試合でスタメンのピッチに立つのは高橋祥平ただ1人という可能性さえあるのだから。もちろん渋谷監督の言いたいことはメンバーのことではなく、大熊清前監督の後を引き継いで以来、チームに植え付けてきた「我慢強い守備」のことには違いない。試合を重ねるごとに洗練され、ブロックをコンパクトに保って上下、左右のスライドと、チャレンジ&カバーの意識も徹底されてきている。前節・F東京戦では、多くの時間で主導権を相手に握られて押し込まれながらも、流れの中で決定機はそれほど作らせず、クイックリスタートからの一発を守りきった。「残留争いなので、勝つために守備は絶対。横浜FMはポテンシャルがあり、クオリティも高いが、ゼロで抑えていれば何かがある」(渋谷監督)と、大宮らしい堅守で挑む構えだ。
一方、横浜FMは栗原勇蔵、中町公祐が負傷中で、その穴をファビオ、兵藤慎剛が埋めている。齋藤学も前節に途中出場して復帰の目処が立ち、開幕戦のスタメンからの変更は2人程度になりそうだ。横浜FMのここまでの総失点は24でリーグ最少タイの安定感を誇るが、ラフィーニャの離脱、中村俊輔の病欠もあって、得点はここ6試合で2と寂しい数字。とはいえ前節・清水戦では、得点こそ藤本淳吾のミドルシュートのみにとどまったが、本来は攻撃的MFの兵藤がボランチに入ったことで中村の後ろにもう1つ起点ができ、数多くの決定機を作った。手応えを得たこの形で、大宮に対しても優位にゲームを進めにくるはずだ。
大宮はリーグ戦のホームゲームで横浜FMに負けたことはないが、前節は同じくホームで勝ったことがなかったF東京に勝利しており、相性とかジンクスは当てにならないということを自ら証明した。現状の力関係で言えば、守る大宮、攻める横浜FMの構図になることは間違いない。ともに前節は勝利したが、大宮はF東京に対してシュート数3対15と圧倒され、横浜FMは清水に対しシュート数15対4と圧倒した。似た試合展開になることは容易に想像できる。大宮にとって焦点は、いかに粘り強く守り、カウンターで少ないチャンスを生かすことができるか。横浜FMにとっては、リスクマネジメントを怠らず、少なくないはずの決定機に決めきることができるか、となる。
さらに大宮にとって、家長の不在は実に痛い。超絶的なキープ力によって前線で時間を作り、ここまで6ゴール8アシストの絶対的エースである。渡邉大剛もしくは橋本晃司、富山貴光らの起用が考えられるが、「同じことのできる選手はいないし、どういう役割の選手を置くか」渋谷監督も頭を悩ませている様子だ。いずれにせよ、チームとしてどれだけ敵陣でマイボールの時間を作れるかが重要な課題となるだけに、家長の不在を全員でカバーしなければならない。「ズラタン、ムルジャに合わせて、そのセカンドボールを拾うのも一つのサッカーのやり方」と指揮官は言い、増田誓志や北野貴之も「相手の最終ラインの裏に蹴って、そこで押し上げて前からパワーをかけてもいい」と声をそろえる。どういう戦い方を選択するにせよ、いかにチームとして意思統一して戦えるかどうかが勝負のポイントになるだろう。
以上
2014.10.21 Reported by 芥川和久