正直、勝ち上がることは相当に厳しいと思っていた。水本裕貴、塩谷司、宮原和也と年代別を含む代表組不在に加え、森崎和幸という攻守の大黒柱もケガで欠く。さらにミキッチまで負傷で先発できないということになれば、戦力的にもさらに難しくなる。だが、それでも広島は決勝への切符を手に入れた。第2戦の最後は途中出場のミキッチがまたも負傷し、10人での戦いを余儀なくされたにも関わらず、柏の猛攻をしのぎきった。本当に大きな2試合での「勝利」だった。
以前の広島であれば、レギュラーと控えメンバーとの差が激しく、いわゆる「主力」と目される14人くらいとその次の選手層とのギャップが大きくて戦力的にもコンビネーション的にも、大きく落ちたものだ。だが、今は違う。たとえば宇佐美貴史(G大阪)やレナト(川崎F)、フォルランやカカウ(C大阪)のような、1人でゲームを決定づけるような突出したタレントは存在しない。しかし、サンフレッチェのサッカーを表現するためのタレントは、高いレベルで揃っている。極端な話、11人全てが入れ替わったとしても、それなりの戦いができるレベルだ。もちろん、プレッシャーがかかった中でのスキルを発揮することは経験が必要ではあるが、紅白戦を見ていても主力組とサブ組は五分と五分。今や、ポジション争いに聖域はない。
明日の名古屋戦でも、広島は主力のミキッチや森崎和幸が出場できない。おそらく数年前であれば、彼らの欠場は大きな問題となっていただろう。もちろん、ミキッチの突破力は他に類を見ないし、森崎和のクレバーなゲームコントロールと強烈かつ精度の高いタックルは、真似ができないもの。だが、他の個性を持ったハイレベルの選手たちが広島にはいる。たとえば柴崎晃誠はバランス感覚に長け、低い位置から一気に前に出る攻撃性もある。山岸智はコンビネーションを使えるし、守備力も高い。清水航平は球際に強く、ドリブルに長けている。そして彼ら2人に柏好文を加えた3人は、強烈なシュートを持っているのが強みだ。
名古屋は川又堅碁が移籍加入後の初先発となった第21節以降、4勝2分1敗。この戦績は、G大阪の6勝1分、浦和の5勝1分1敗につぐ第3位の好調ぶりだ。一時は下位に低迷し、第19節時点では16位と降格圏に沈んでいたこのチームだが、元々タレントの質量は豊富。川又やレアンドロ ドミンゲスといった質の高いタレントを補強し、彼らが見事に自分の力をチームの中で発揮。田中 マルクス闘莉王や永井謙佑、ダニルソンや田口泰士といったと実績ある選手たちが状態をあげ、若い矢田旭や牟田雄祐の台頭も絡んで、順位も一気に向上。現在は12位ながら賞金圏内の7位神戸とは勝点差4。心配された降格圏争いからは完全に抜け出した。
広島対策としてミラーゲームを仕掛けるチームが多い中、西野朗監督は対戦相手によって戦い方を変えるような戦術は、基本的にはとらない。したがって、これまでどおり4バックの布陣で戦ってくることは間違いないが、そこに広島は攻撃の活路を見いだすことができる。ボールサイドに絞って守ると、4バックの場合はどうしても逆サイドのスペースが広がってくるわけで、そこで有効なサイドチェンジを使えばワイドの選手たちはフリーでボールを持てる確率が高くなる。それが、狙い目だ。
ただ、簡単にクロスを入れても、闘莉王を中心とする名古屋の高さは崩れない。考え方としては、ワイドプレーヤーがクロスではなくシュートを選択すること。2012年の瑞穂決戦において、広島は自陣で押し込まれながらも逆サイドにダイナミックに展開。清水が一気にボールを持ち込んでゴールを決めたわけだが、シュート力に長けた広島のワイドであれば、この場面の再現は十分に期待できるだろう。ナビスコカップで佐藤寿人が高萩洋次郎のパスから2得点を記録したが、名古屋の強くて高い守備陣がやすやすと広島の形を許すとは思えない。だからこそ、ワイドがクロスではなくシュートで終わる形をつくれば、中のマークも緩まざるをえないという計算だ。
川又や永井、松田といった破壊力に満ちた名古屋の前線は、特にカウンターで威力を発揮する。一方で名古屋側の視点から見れば、一瞬の切り替えから飛び出す高萩や青山敏弘の縦パスに佐藤が反応する形がもっとも怖い。共にボールを持てるチームではあるが、一方でボールを持っている時こそ、危機が背中合わせに存在すると言えるだろう。90分間、常にピンチとチャンスが交錯するスリリングな90分。最上のエンタテイメントを提供してくれる予感は、ある。
以上
2014.10.17 Reported by 中野和也