「ゲームに関してはまったく言い訳しようとは思いません。これが結果ですので、これが自分たちの力だと思ってます」。神妙な表情で北九州・柱谷幸一監督。キャプテン・前田和哉も「奪われたあとの守備とか、セカンドボールの反応とか、すべてに関して相手のほうがこのゲームに関しては上回っていたなと思います。まだまだですね、僕たちは」と厳しい表情を崩さなかった。ホーム連戦の山形に対して、アウェイ連戦。台風にも見舞われ、ナイトゲームで気温も低い状態。「完全アウェィのような状態」(柱谷監督)のなか、ハンディキャップをはね除けることはできなかった。1−0というスコア以上に試合の趨勢を映し出すのは22対5のシュート数。ともに初のベスト4を懸けたJ2同士の対戦、新たな歴史の扉を開いたのは山形だった。
ロングボールでの陣取り合戦はキックオフから5分ほどで終わり、北九州は自陣に3ラインのブロックを構え始めた。それと平行して山形がボールを握り試合を進める展開へと移行したが、起点にしたのは北九州の2トップとボランチの間のスペース。主に宮阪政樹がハブの役割を果たしながらボールが散らされていった。右・山田拓巳、左・キム ボムヨンの両ウイングバックに高い位置でボールが収まり、特に右サイドでは山田に対して北九州の内藤洋平が付いていったあと、舩津徹也はノープレッシャーの状態でボールを保持できた。しかし、リスク管理の意識の高さもあって思いきりのいい崩しには至らず、イージーなパスミスもたびたび起きていた。
北九州がボールを奪ったあと、起点にしたのもやはり山形と同じエリアだった。山形のダブルボランチは縦関係となっていたため、最終ラインの手前はワンボランチ状態。そのスペースに浮遊していた池元友樹が攻撃の起点となった。その流れのなかで、18分には星原健太から原一樹への縦パスが通り、星原が小手川宏基を追い越してサイドを押し込むシーンも作っていた。しかし、北九州もまた決定敵な場面をつくり先制する以上に、失点せずにゲームをつくることを重視し、山形の守備陣に大きな混乱は起きていなかった。
ボールを握っているのは山形だが、攻撃機会が少なくともシュートまで持ち込ませなければ北九州のペース。息詰まる盾と矛の攻防のなか、31分には山形のパスミスを奪った北九州がそのままカウンター。起点の池元から原へと渡りシュートまで持ち込んだが、これは枠外へそれた。するとここまで攻めあぐねていた山形もディエゴがワンツーなど細かいパス交換からシュートに持ち込むシーンを何度かつくる。37分には舩津のクロス、キムの折り返しに詰めたディエゴが飛び込んで惜しくもサイドネットを揺らし、46分のカウンターでも山崎雅人からパスを受けたディエゴが前を向いたが、送ったくさびが中途半端で相手守備にひっかかり、得点チャンスを潰していった。するとアディショナルタイムには逆に北九州にビッグチャンスが訪れる。右サイドから左サイドへ、バックラインを移動してきたボールを多田高行がアーリークロス。原の落としに池元がフリーでシュートを放った。しかし、これはGK山岸範宏の好セーブに阻まれ、続くコーナーキックでも原のヘディングはゴール方向へ飛ばず、スコアレスで前半を折り返した。
「自分たちがボールは持ててるけど崩しきれなかったりしている時間があって、多少ストレスもたまってた」と前半を振り返ったのは山田。しかし、「ハーフタイムには、そんなに焦れる必要もないし、落ち着いてこのまま点取るまで崩しきっていこうと話していた」。焦れずに戦うことを再確認した山形が、後半さらに攻勢を強める。立ち上がりに山田、続いてキムが遠目から積極的にシュートを放つと、守備への切り替わりでは松岡亮輔が厳しくアプローチ。相手が倒れてファウルとなり、フリーキックを与えることは得策ではないが、それ以上に相手を精神的に追い詰める気迫が勝っていた。
「ハーフタイムに監督から、『もっとワイドにシンプルに当てて、そこから起点をつくれ』と言われていた」(舩津)と、山形は主に中盤の宮阪がワンタッチでウイングバックを使いながら左右に揺さぶり、ブロックの間では川西のキーブ力と確実に味方につなぐプレーが効いていた。守備に切り替わってもボールホルダーへの圧力は前半以上に強まり、北九州の2トップがボールが収めるシーンはほとんど見られなくなっていた。八角剛史は「圧力をかけられたなかでカウンターのチャンスを狙っていたんですけど、今日はそこからの前への推進力も少なかったですし、苦しい時間帯にマイボールにする時間帯が足りなかったなと感じました」と振り返っている。
その傾向は65分、山崎に代わり伊東俊が投入されたことでさらに強まる。コーナーキックから當間建文の折り返しに石井秀典がシュートを放ち、伊東と山田のパス交換から最後はクロスにファーサイドのキムがシュート。決定機に持ち込まれ、ラインも前半以上に押し上げられなくなった北九州は、原に代えて大島秀夫を投入する。しかし、この交代策は大きな効果を生み出すことなく、大島自身も前線で起点をつくるどころか自陣深くまで守備に戻る状況に追い込まれていく。一方的に攻撃を続けながら得点が奪えなかった山形だったが、堅く閉ざされた扉をついにこじ開ける。79分、テンポよくボールを回しながら押し込んだ山形は、右サイドに上がっていた宮阪からニアへくさびを入れる。足の裏で落とした伊東と3人目の動きで絡んだ川西の呼吸がピタリと合い、最初の持ち出しでわずかに空いたシュートコースを逃さず川西の左足が振られると、地を這うボールはGK大谷幸輝の手をかすめてゴールマウスに届いた。
北九州は冨士祐樹と井上翔太を投入する2枚代えで反撃を試みるが、シュートチャンスにたどり着く前に奪われて山形のカウンターを浴びる。伊東が球際でマイボールにし左サイドをフリーで飛び出した88分のシーンや、山田のスルーパスから伊東がヒールでディエゴにスイッチした89分のシーンなど、山形に追加点が入ってもおかしくないような時間帯と4分間のアディショナルタイムを経て、歴史的な瞬間を知らせる笛が鳴らされた。
2回戦からの4試合はすべて1−0と山形は無失点を継続中。準決勝はリーグ最終戦の3日後、またもJ2千葉との対戦となる。これまでの3試合はメンバーの大幅入れ替えを実施。際どい勝利をたぐり寄せた試合もあれば、4回戦の鳥栖戦では内容で優位に進めながら決めきれず、延長戦で決着を見た試合もあった。「かなり周りからのプレッシャーがあってですね、なんとしてでも勝てということで」(石崎信弘監督)とメンバー変更が最小限に抑えられた今回も、相手を圧倒しながら決めきれず、結局1得点に留まった。「自分のところの仕掛けのところでミスが多かった部分があるので、そういうところは常に毎試合ですけど改善していかないといけないと思います」(舩津)、「最大の目標はJ1に上がることなので、ベスト4に入ったということでぬかよろこびしたくないなというのは強く思ってます」(松岡)とチーム、個人それぞれの課題は残されている。そして天皇杯で勝利した直後のリーグ戦は1分2敗。4回戦直後の愛媛戦では0−4と大敗を喫している。次の相手はリーグ戦で5戦全敗の岡山と、プレーオフ圏内の椅子を巡る潰し合いとなる。「なんとしてもここの殻を破らなければ強いチームにならないんじゃないかと。もっとタフなチームになるためにも、次の岡山戦が大きなポイントになるんじゃないかなと思います」(石崎監督)。手にしたベスト4の価値は変わらないが、それを未来に得られるはずの成長と引き換えにしてはならない。
以上
2014.10.16 Reported by 佐藤円