互いに勝点3だけを目指した戦いは、残り5分を切ってから激しい攻防を繰り返した。ボールを支配して讃岐ゴールに迫る福岡。ゴール前を固めて福岡の攻撃をはじき返し、カウンターから決勝ゴールを狙う讃岐。そのひとつ、ひとつのプレーにスタジアムは歓声とため息に包まれる。そして90分、勝負を決するゴールが生まれた。
讃岐陣内深くまで攻め込んだ福岡のクロスボールがずれたところを小澤雄希がカット。そこから、素早く「守」から「攻」へ切り替えた讃岐が一斉に前へ出る。小澤、アラン、小澤、大沢朋也と小気味よいテンポでボールをつなぐと、前線まで駆け上がった小澤に再びボールが戻る。その反対サイドを駆け上がるのは関原凌河。その駆け上がる先に小澤からラストパスが通る。「好きなコースが見えた。振り抜けば入ると思った」。そう話す関原は躊躇なくダイレクトで右足を一閃。鮮やかな弾道がゴール左隅に突き刺さる。讃岐のJ2残留の可能性を広げる値千金のゴールだった。そして、4分間のアディショナルタイムを経て試合終了のホイッスル。「勝たなければいけない試合」は讃岐が制した。
振り返れば、讃岐の思惑通りに進んだ試合だった。ホイッスルと同時に前へ出た讃岐は、高い位置からプレッシャーをかけ、奪ったボールを素早くゴール前へと運んでいく。そして16分、福岡のパスミスから攻撃に転じて左サイドを駆け上がると、福岡ゴール前にこぼれたボールに高橋泰が素早く反応。堤俊輔ともつれながらも冷静に放ったループシュートがGK神山竜一の頭上を越えてゴールに吸い込まれた。その後も、堅固な守備をベースにしたカウンターサッカーでリズム良く試合を進めていく。
福岡がリズムを刻みだしたのは30分を過ぎた辺りから。33分に酒井が放った決定的なヘディングシュートはポストを僅かに左に外れたが、それを合図に猛攻を仕掛けた。ボールを一方的に支配して、細かくつなぎながらサイドアタックを繰り返す。それまではカウンターで応酬していた讃岐も、さすがに前へは出られなくなっていく。しかし、それも讃岐にとっては想定の範囲内。高橋泰は振り返る。
「最初の10分、15分はリズムを掴むために前から仕掛けるという意識があって、それでも行けなくなったら、ラインを落としてしっかりとブロックを作るというのが讃岐のやり方。あの時間帯は意図的にラインを下げて、割り切って守っていた」
福岡にしてみれば、同点に追い付けば一気呵成に仕留められるという想いもあっただろう。そして64分、セットプレーから堤が同点ゴールをゲット。選手はもちろん、会場に足を運んだ福岡のファン、サポーター中にも、これで流れが変わると思った者は少なくなかったはずだ。しかし、徹底して守備意識を高めワンチャンスを待つという変わらぬ姿勢を貫く讃岐の前に、福岡の攻撃は活性化しない。そして、残り5分を切って福岡が更に前への意識を高めた時間帯に、讃岐も勝負を仕掛ける。そして90分、冒頭の決勝ゴールが生まれた。
「見た目は不細工かもしれないが、泥臭くやるところは泥臭くやって、割り切るところは割り切って、ディフェンスからカウンターを仕掛けるという意識が全員に染みついてきている」。高橋泰のこの言葉が、この日の讃岐の戦いぶりを代弁している。J2残留をかけての戦いのプレッシャーは相当なもの。しかし、そのプレッシャーは讃岐の戦いぶりからは全く感じられない。自分たちが何を表現するのかという意思統一が明確になされたチームは、むしろ、はつらつと戦っているかのようにさえ見えた。それが、この日の勝因であったことは間違いないだろう。
一方、「チャンスは結構多かったが、一番大事なところでの精度と質が足りなかった」と話したのは城後寿。どこかで、1本のパスがつながっていればという想いは残る。しかし、攻撃を仕掛け続けながら、どこかに閉塞感が漂っていたのも事実。チームとしての意思統一という点で、讃岐の後手を踏んだのは否定できない。思うように勝点が伸ばせない日々が続くことでチームとしてのバランスを欠いてきたように見える。
しかし、この日勝利した讃岐も、敗れた福岡も、まだ何も手にしたわけでもなければ、何かを失ってしまったわけでもない。残り試合は6。自分たちの想いをぶつける戦いは、まだ終わってはいない。
以上
2014.10.12 Reported by 中倉一志