千葉が後半の5分間で3ゴールを奪い、3−0の勝利を収めたJ2第35節・福岡戦。千葉の3点目は、福岡のCKを山口智選手がヘディングでクリアし、そのクリアボールを拾った山口慶選手から前線へパスを繋いでのカウンター攻撃だったが、ゴール前で幸野志有人選手のラストパスを受けて得点したのはキム・ ヒョヌン選手だった。
さっきまで自陣のゴール前で守っていたセンターバックの選手が「なぜ、そこにいる?」という感じのオーバーラップでのゴール。そのシーンを振り返ると、左サイド寄りで山口慶選手からパスを受けたキム・ヒョヌン選手はタッチライン際にいた町田也真人選手にパスを出すと、町田選手からパスを受けた幸野選手がドリブルで仕掛けている間に斜めにピッチを疾走し、「ここへパスを出して」というように右手で指さしながらゴールの右側に走り込んでいた。
「点を取ってうれしいですし、2−0よりも3−0になったほうがチームは安心できて楽になるのでよかったです。チャンスがあってカウンター攻撃ができる時は自分も行きたいと思っているので、今日は思い切って行きました。(幸野)志有人がボールを持っていたので、クロスが来るかなと思っていました」
試合後にそう話したキム・ヒョヌン選手だが、千葉加入前はほとんど経験がなかったサイドバックでの出場時にはもちろんオーバーラップはあったものの、センターバックのポジションではオーバーラップしたとしても試合であんなふうにゴール前まで行くことはなかった。10月9日の練習取材時に改めて「大学時代にも、ああいうふうにオーバーラップをすることはあったのか?」と聞くと、彼はこう答えた。
「前に上がっていくことはあったけど、そこでああいうふうに点を取ったことはありませんでした。あの場面は慶さんがそのまま後ろにいてくれたし、千葉ではダブルボランチの選手がしっかり守ってくれるので上がりやすいです」
サイドバックでの経験がセンターバックでのオーバーラップに生きているか聞くと、「前に上がるタイミングは勉強になったところがあったと思います」とのことだった。
初めての日本でのプレーに加え、不慣れなポジションもあってミスをするとチームメイトからいろいろ言われることも多かった昨季は、こんなことを話していた。
「日本語を聞き取ることはできるんですけど、自分の意思を正確に伝えるという部分では通訳の方を通してでないと難しいところがまだあって、試合中は何も言えないことがあるんです。だから、チームメイトから言われたことを全部受け入れるばかりになって、そこでちょっとつらくて自信をなくした部分はありました」
昨季は常にチームにいた通訳の趙光洙さんが韓国代表チームのスタッフになり、今季はホームゲームに韓国語の通訳の方が来ることもあるものの、普段の取材は日本語で対応しているキム・ヒョヌン選手。本人は「難しいのでまだまだです」という日本語の会話がだいぶ上達している一方で、今季は本来のポジションのセンターバックでの出場も多く、生き生きとプレーしている。対戦相手をマークする際やカバーリング時のスピードの速さ、競り合いの強さという持ち味を発揮して、今や千葉に欠かせない戦力へと成長している。
オーバーラップ時だけでなくセットプレーでのゴールにも期待がかかるが、本人は「自分は守備の選手なので、まずは失点をゼロに抑えたいです」と話す。千葉のJ1昇格のために守備で、そして時には攻撃でも輝くキム・ヒョヌン選手の姿は、加入時よりもずっと逞しく頼もしくなっている。
以上
2014.10.10 Reported by 赤沼圭子