「負けるとは考えていなかったからちょっとショックだけど、久々にJ1の試合を見た」
試合後、鹿島の強化責任者として長年辣腕を振るってきた鈴木満常務取締役強化部長は、敗れたことを悔いながらも興奮した面持ちだった。近年、若い選手の海外移籍が常態化。どのクラブもチームが熟成される前に働き盛りの若手が巣立っていくため、ポテンシャルが最大限に引き出したチーム同士の対戦は以前よりも確実に少なくなっていた。しかし、G大阪は宇佐美貴史が、そして鹿島は柴崎岳が中心を担える存在に成長を遂げ、チーム全体も成熟。台風の影響で試合前から雨が降り続く悪環境を吹き飛ばす、高レベルな応酬が優勝戦線の生き残りを賭けて繰り広げられた。
幸先よく先制点を奪ったのは鹿島だった。前半5分、右サイドに開いた遠藤康がボールを持った瞬間、赤崎秀平がゴール左前から右に向かって斜めに走り抜ける。まるで他の選手の時間を止めてしまったかのように赤崎だけが動くと、遠藤からのパスを受けて鋭い反転からシュート。電光石火の先制点をあげた。続く14分にもカイオと赤崎のワンツーでチャンスをつくるも、東口順昭との1対1をカイオが決められない。このビッグチャンスを逃したことが後々響くこととなった。
対するG大阪は、雨に濡れたピッチを生かしシンプルにパトリックの馬力を生かす。右MFの阿部浩之が鹿島の左SB山本脩斗をサイドに引っ張ると、空いたスペースにパトリックが走り、右足太もも裏に不安を抱える昌子源と1対1をつくることで、鹿島の布陣を間延びさせていく。
時間の経過と共に、そうした場面が増えペースはG大阪へ。それを決定づけたのが29分の鹿島のオウンゴール。遠藤保仁の左サイドからのクロスは、合わせる選手がいないコースに飛んだが、パトリックの存在を意識しすぎたのか山本がクリアすると、それが曽ヶ端準の逆を突き、そのままゴールに吸い込まれた。
しかし、後半になると鹿島がペースを取り戻す。シンプルにワンタッチ、ツータッチのパスまわしを増やすことで攻撃がリズムを生まれ、前半とは逆に相手を押し込めるようになる。65分には良い形でボールを奪うとすばやく攻撃開始。雨で濡れるピッチのなか正確にパスを繋ぎ、最後は全力で走りながら見事なファーストタッチでボールを収めた柴崎から間髪入れずに出されたスルーパスを土居聖真がダイレクトで流し込み、再びG大阪を突き放した。会心の得点に拳を突き上げる選手たち。美しい得点にスタンドも沸き立った。
ところが、その6分後、G大阪にもすばらしい得点が生まれる。左サイドでパスを受けた宇佐美が鋭い動きで相手をはずし、中央へクロスを送ると、パトリックが長い足を伸ばして押し込み、あっという間に同点に追いついてみせた。
その後、どちらも3点目を奪うチャンスに恵まれたが決めきれないまま時間は過ぎアディショナルタイムに突入。このまま引き分けかと思われたが、93分+3、途中交代でピッチに入っていたリンスが右足を振り抜き決勝点を叩き込む。
G大阪の選手たちが大騒ぎする横で、小笠原満男が仰向けになりながら芝を叩いていた。
G大阪は8年ぶりの6連勝を達成。その勢いのまま水曜日にはヤマザキナビスコカップを迎える。鹿島は痛恨の敗戦。浦和との勝点差は再び7に開いてしまった。
以上
2014.10.06 Reported by 田中滋