2015年シーズンのJリーグクラブライセンスの決定内容が9月29日に発表された。北九州はホームスタジアムの北九州市立本城陸上競技場が基準を満たさず、今シーズンと変わらず「J2ライセンス」。もっともこれは予想されていたことであり、いま改めて言及する必要はないだろう。むしろ対戦相手の富山にとって気になるのは、J3勢のJ2ライセンス取得状況ではないだろうか。
本稿執筆時点でJ3は金沢、町田、長野、鳥取の順で上位を争っている。クラブライセンス交付第一審機関(FIB)は新たに長野へのJ2ライセンス交付を決定。これにより、条件付きとなった鳥取を含め上位4チームすべてが2位以内に入れば自動昇格か入れ替え戦に進むことが可能となった。入場者数など他の条件もあるがそれは決定的な状況に近い。特に上位3チームは抜け出しており、J2最下位の自動降格と21位の入れ替え戦はかなり現実味を帯びてきたと言えるだろう。
現在、J2最下位の富山。「降格の危機」は何度も言われ続けてきただろうが、改めて最低限の最下位脱出と、21位よりも上への浮上という課題を突きつけられた。
富山は前節の福岡戦、月並みな表現ながら気持ちの入ったプレーで相手を圧倒。先制して試合の流れを掴みかけた。しかし後半に入ると福岡の個の力への対応が遅れ、結果的には手にしたはずの勝点3はこぼれていってしまった。試合後、安間貴義監督は「自分たちのやるべきことに情熱を注ぎたい。残留へと後押しをしてくれているファンやサポーターのみなさんに応えるために準備していく」とコメントしているが、その言葉のとおり、下を向かずに準備し試合を迎えることが重要だ。シンプルにボールを入れる攻撃も、セカンドボールを拾って再度構築できれば厚みを増す。失点のリスクを負ってでも攻め続けるアグレッシブさを出し続けることが今節も勝利への近道となろう。
もっとも、ひとつ勝てば3位に肩を並べる可能性もある北九州と22位の富山。蓄積されてきたチーム力には差があると言わざるを得ない。「お互いが100%を出した場合はうちが勝つと思うが…」。柱谷幸一監督はこう話す。「うちが勝てるという気持ちでゲームに入り、70や80しか出せないのであれば勝つことはできない」。J2残留に望みを繋ごうと熱を注ぐ富山の「100%」には必ず100%で返さなければ結果は出せない。それはキャプテンの前田和哉も同じ思いだ。「みんなが分かっていることだとは思うが、メンタルのところでもう一度声を掛けていきたい」。表情は決して緩まなかった。
ゲームの中で注目したいのは北九州の左サイドバック、多田高行。北九州は2試合連続で無失点と守備力が上向いてきているが、この2試合はともにバックアッパーだった多田が先発出場を果たした。多田は「サイドバックは(ポジション取りによって)顔を上げられるか、ヘッドダウンするかが変わってくる。相手に対してどうやっていくかはサッカーの醍醐味。まだできていないところもあるが、より良くなるように考えながらやれている」と話す。ディフェンス面での貢献はもちろん、攻撃に切り替わったあとのボールの運び方にも、考えながらピッチに立つ多田らしさを出してくれるだろう。ポゼッションしたり、速いカウンターに出たり、キーマンとなって存在感を示したいところだ。
また、北九州・池元友樹と富山・木本敬介の東福岡高同士のマッチアップも楽しみ。「すごく頑張るし、スピードもある。富山での(木本への)応援は大きくてほんとうにみんなから愛されているなと感じた。苦しい中でもチームを背負って戦っている」と池元は同輩をたたえる。両雄は今やチームの中心を成す選手へと成長。彼らの献身的なパフォーマンスが10月の厳しい戦いに挑むチームを奮い立たせている。
展開としては、いつも通りの力をいつものように出した場合は北九州が優位。すなわち北九州が前半は重心低くゲームを運び、後半にカウンターやサイドからの崩しで加点していく、普段通りとも言えるゲーム展開だ。ただ、北九州の指揮官やキャプテンが指摘していた慢心の魔が差し、「情熱」を持って臨む富山のアグレッシブさが上回ればゲームの結末は筋書き通りとはいかない。
勝敗のくっきりしそうなゲームほど予想の難しい展開が待っている。勝敗は培ってきた自分たちのサッカーに対する信頼と、表裏一体の傲然に左右される試合になるかもしれない。当然の結末も、アップセットも、何でも起こりうるサッカーの行く末を、見る側も情熱を抱いて見届けたい。
以上
2014.10.03 Reported by 上田真之介